@particle30

惑星イオはどこにある

人喰いの大鷲トリコ

 

――思い出の中のその怪物はいつも優しい目をしていた――

 

www.jp.playstation.com

 

 

 


恐ろしく感動した。

 

これほど質感を持って、体温のような生ぬるい暖かさを感じる、あとあとまで尾を引く物語は初めてかもしれない。

もちろん今までも、偉大な物語にはたくさん出会ってきたつもりだが、これほど肉感のあるものはなかった。

 

小説は人の思想を変えてしまうことがある。
漫画はときに人を勇敢にする作用をもつ。
では、ゲームは?

 


今でもトリコを見ると、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。このゲームはわたしに弱点を作った。

 

 

つまり、「ゲーム」の、それもコンシューマーゲームの、素晴らしさというやつを教えてもらった。実は、もともとあんまり大きい画面での、ストーリー重視ではないゲームは好きじゃないんです。目が回るし、頭痛はするし、*1ゲームのなかでいくらアクションが上手くなったところで、それは指先だけの話で、あんまり気持ちよくもなくて、好きじゃない。でも、トリコはとてもよかった。

 

 

わたしはトリコに抱きついたことは、もちろんないはずなのに、両手一杯にあの羽毛を搔き抱いたときの、やわらかさと獣の臭いが、なぜか今も鮮明に思い出せる。

 

どんなゲームなのか

基本的にはさまざまなしかけを使いながら前に進んでいくことだけを目的としたゲームです。*2
ストーリーゲーではまったくありませんが、一応台詞や設定のようなものはあります。

 

ほとんどウィンドウが出ないゲームで、体力ゲージやスキルゲージみたいなものもありません。
美しい背景とトリコの体がはえました。

 


ただ正直なところ、操作性や、謎の難易度については、あまりうまいとは思えませんでした。*3
世界が圧倒的に綺麗なので、そのなかを動き回るのはとても楽しかったのですが、謎自体は……なんというか2000円で中古で買ったゲームのようというか……あまりに難しいときや、簡単すぎるときがあって、気づいたときには、爽快感というよりもがっかり感が多く……こう…伝わりますかね……???

 

わたしはあまり3Dのゲームはやらないので、そもそもこういうものなのかどうかよくわかりませんが、結構頭が痛くなるゲームでした。目が疲れる。二時間やったら、そのあと三十分は休憩しないといけないような。*4

 

そのあたりのことは普段からゲームプレイされる皆様が丁寧にレビューされているのでこちらをご参照ください。やっぱり操作性はみんな酷いと言っているな……とはいえ、「プレイできない」というほどではなく、細かいところの補助が足りない、という評価です。気が利いていない、という感じかな。

 

 

 


そしてトリコ。

まったく言うことをきかないこともあります。気まぐれに空を見に出て行ってしまったり、さっきまで元気に動き回っていたと思えば疲れちゃったのか突然座り込んでしまったり。

 

大きくて、ふわふわしていて、優しい瞳の、わたしの言うことをきかない生きもの。

 

でも、わたしはトリコが大好きです。ひどく執着しているといっていい。

 

トリコが言うことをきかないということはつまり、話が前に進まないということ。
最初は「まあ、生きものだからな」と納得していましたが、しかし途中で、もう我慢ならなくなったときもあった。そういった苛立ちによる精神の交流がたしかにあったように感じた。わたしはトリコを叱ったり許したりしながら前に進んだ。いや、そんな描写は一切ゲームのなかにはありませんでしたが、わたしはたしかにトリコと喧嘩して、そして仲直りしたことがあるように思う。先にわたしが謝ったこともあればあちらから歩み寄ってくれたこともあるように思う。

 

子犬の世話をしているように感じることもあれば、とつぜんあの子が立ち止まって、おすわりの形に足をただしく揃えて、わたしのことを見下ろすとき、まるで母親のような慈愛を瞳のなかに見ることもあった。

 

間違えて落ちてゲームオーバーになったときには、残されたトリコのことを思ってひどく心が痛んだ。*5

 

どうあっても言うことを聞いてくれないときには、もしかして具合が悪いんだろうかと心配しはじめたこともある。
どうしてか、わたしがそれだけ心を砕けば、聞いてくれるような気がした。これはたぶん、うちの犬は喋ると主張する飼い主と同じようなものなのですが。

 

実家で飼っていた犬にもさした愛着を感じたことはないですが、トリコには深い愛着を感じる。トリコをプレイしてからというもの、犬を見ても鳥を見てもアザラシを見ても胸が苦しくなる。この世界に好きなものを増やしてくれるゲームだ。わたしは確実に、このゲームをする前のわたしよりも動物に優しくなったと思う。

 

エンディング

エンディングの少し前、わたしは、もうこのゲームは30分以内に終わるかもしれない、という予感を得た。*6
(実際にはそこから2時間ほどのプレイ時間が必要だったが。)

 

しかしそう思った瞬間、この生きものと、離れがたくて離れがたくて、日の射す美しい庭園のなかで、あの子の顔を撫で続けた。トリコも動こうとせずに、死んでしまったのかと思うほど、まったく動かなかった。ふたりとも、ここから一歩も進みたくなかった。ずっとこの美しい檻のなかにいたいと思った。永遠に。

 

減点法で評価するなら、凡作にも負けるかもしれない。もちろん、ビジュアルは完璧で言うことはないが、操作性の部分で失点が大きい。でも、わたしはこのゲームは「傑作」だと思う。芸術家が特に人間として到底尊敬しえない素養を持つのと似ている。失点がいくらあったところで、揺るがない恐ろしく美しい物語。

 

硝子の目を越えて、あの子が助けにきてくれたとき、わたしの胸にどれほどの感動が湧き上がったか、言葉ではとても伝えることができません。

 

また、これはゲームとしてはどうなんだという部分かもしれませんが、トリコが勝手に謎を解いて先に進んでくれることもありました。指示なんて出さなくても巨獣は飛翔して、空を駆けて、わたしをもっと先まで連れて行ってくれた。
逆に、わたしの指示がまったくとんちんかんだったせいで、ぜんぜん関係のないところに連れて行ってしまったこともあります。そんなときも、戸惑いながらも、トリコは一度はわたしの指示にしたがってくれました。一緒に間違えてくれたのです。

 

 

繰り返すが、Amazonのレビューは正しく、このゲームにはたしかに欠陥がある。それも中盤では、耐えられないと思うほどの重大な欠陥が。しかし、何にも代えがたい感動がある。なので、数人でプレイすることをおすすめする。

 

一人ではつらくても、二人なら、交代しながらなんとか乗り切れるかもしれない。トリコと少年のように。

 

 

 

 

*1:ちなみに頭が結構痛くなるので、二時間ごとに休憩を挟みながら3日かけてやりました。休憩中、ティータイムしながら、きままに原っぱを駆けるトリコを眺めるのはたいへんいいものでした。総プレイ時間の半分以上はトリコを撫でたり眺めたりしていたように思う。

*2:わたしはやったことがないのですが、ICO・ワンダと似ているそうです!!!!(レビューで得た知識)

*3:正直、分からなくなったら攻略みてもいいと思います。無理に謎を全て自力で解くことが、このゲームの真髄ではないように思う。

*4:ちなみに毎日12時間以上は確実にモニターを見る生活を十年以上続けているので、モニター耐性は結構あるほうだと思っています……。

*5:ゲームオーバーになったら罪悪感を感じるゲームってすごくないですか。

*6:当然エンディングではぼろ泣きしました。「STAND BY ME ドラえもん」とか「ポケットモンスター君に決めた!」と同じぐらい泣いたような気がする。