@particle30

惑星イオはどこにある

斉藤和義のすきな歌

 

斉藤和義を聞いていた一日だったので、まとめようと思う。

 

■ベリーベリーストロング ~アイネクライネ~

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「ベリーベリーストロング」というのは、もちろん、「とてもとても強い」という意味で、人間と人間との絆のうたなわけです。なのに、街頭アンケートに全然答えてもらえない主人公や、離婚しそうな先輩のことが歌われている。斉藤和義の声は都会を思わせる声で、聴いているだけでさびしくなってくる。エレファントカシマシのうたを聞いているときとおなじ。なんだかさびしそうな人がいるから、その人のそばに行って一緒に歌ってあげたほうがいいんじゃないか、と思うぐらいに寂しさをかきたてる声をしている。

 LIVE音源も聞いた。どうしてLIVE中で観客がうたう歌って、あんなに心ゆさぶられるのでしょうね。実際に好きなアーティストにあれをされると、いやいや、ここ良いとこなんだからあなたが歌ってくださいよ、とか思ったりもするんですが、こうしてLIVE音源聞いてると、歌わせたくなる気持ちがよく分かる。とっても気持ちいいだろうなあ。自分がつくった歌を、やさしくホールで合唱してもらうのって、これ以上ないぐらいあたたかい承認の響きを持つのではないでしょうか。

 歌詞がすき。物語みたいに進んでいくところがすき。たしか、伊坂幸太郎の小説だったり映画だったりもするようだ。いちばん好きなのは、街頭アンケートで断られっぱなしだった主人公が、やっと回答してくれる女性に出会えたときに、雑談をしながら、「立ってる仕事は大変でしょうね」と労われ、それに対し「座りっぱなしも大変でしょうね」と答えながらも、心中で(自分の仕事が一番つらいと思うやつにはならない)と言うところ。唱えるみたいにいうところ。

「自分の仕事が一番つらいと思うやつにはならない」と思うためには、「おれの仕事が一番つらい」と思った経験がないといけないわけです。また、逆説的かもしれないけれど、「自分の仕事にはある程度価値がある」「みんながやっている仕事にもある程度価値がある」ということも分かっていなければならない。一つ一つが部品のパーツみたいにかみ合って、ようやく世界や社会が動いている、ささやかだけれどその中に自分がいる、みたいなことを実感してはじめて、ああ、仕事って、ないようだけど意味あるんだなあ、つらいかもしれないけど、でも……という呑みこみを経てようやく、「自分の仕事が一番つらいと思うやつにはならない」と思うようになる、ご褒美みたいに、そう思えるようになる。

「アイネクライネ」はドイツ語で、バッハだったかモーツァルトだったか……とにかくだれでも知っていそうな名のある作曲家の作品のひとつにつけられた題名で、小さいとか少女とかそういう意味を持つらしい。(あんまり詳しくはしらない。米津玄師にも同じ題名のうたがあるので、その解説記事を読んだときにおぼえた薄い知識だ)

 わたしは男性の狂気を少女がさましてしまう作品がすきで、今のところこの世界でいちばん好きな短編小説はサリンジャーの「エズミに捧ぐ」で、ひどく疲れ切った世界のなかで、ちょっとした誰かの一言に癒されてしまう、救われてしまう、なんでもないことに涙が流れてしまう、そういう人の単純でどうしようもない心の動きが、ほんとうに可愛いなあと思います。

「ベリーベリーストロング」もそう。ベリーベリーストロング、って言いたくなるぐらい強い絆、愛、結びつき、そういうものが世界にはある。たまにしか見えないけれどある。抱きしめたいぐらいに弱そうに思えるのに、人間がそれを大事にできるから、「愛」だって呼べるなにかがある。

 

 みたいな歌なので好きです。

 

 

おつかれさまの国

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その人の疲れに「お」をつけて
「さま」までつけて
「おつかれさまです」と
声かける ぼくらの日々

 わかる。この歌詞だけでわかる。

 毎日だれかに「お疲れさまです」って言っている、自分のその繰り返しを、ふとふりかえる歌であるところが好きです。どの曲も、「今日」とか「昨日」というものにものすごく実直で、積み重ねることによって堆積しているなにかを、心の底から信じている。

 世界はなにかに報いてくれるかもしれないし、何もご褒美をくれないかもしれない。――みたいな雰囲気を出しつつ、奥底の基点の部分では、やっぱり世界に対する信頼がある。そういう歌なので好きです。お疲れさまです、お疲れさまです、これってなんなんだろう。どうして言っているんだろう、って日々のなかで自分の日常がいやになるときがあって、そういうときに自嘲的になる気持ち、そういうのを愛していないと書けないような気がするからすきです。

 

 

■ずっと好きだった

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 わたしはこの歌の題名は「ずっと好きだったんだぜ」だと今日まで(というかついさっきまで)思っていたんですが、「ずっと好きだった」なんですね。とってもまっすぐ。

 最近、どんな小説を書いているのか、と聞かれたときに「ずっと好きだった、の話を書いています」と答えています。正直この歌のタイトルからもらったわけではないので、全然関係ないんですが、でも、今日この歌を聞いていて、改めて、ああいい歌だなあ、と思いました。ずっと好きだった、昨日も今日も好きだった、明日はもしかしたら違うかもしれないけど、でも少なくとも、今日までずっと好きだった。やっぱり「昨日」と「今日」の歌だよなあ、とおもう。セピア色のなつかしさ。過去をこれ以上なく宝物にできる歌。まっすぐだから、「好き」っていうのも恥ずかしいぐらい、有名な曲ですけど、でもやっぱり「好き」です。

 

歌うたいのバラッド

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 うたうたい、と書くときに、「歌うたい」の形式で書くのがすきです。「唄うたい」「うたうたい」「歌謳い」色々あるけれど、やっぱり「歌うたい」かな……って、まあ、そんなの全然本筋と関係のないことですが。

 だれもが知っている名曲。「今日だってあなたを思いながら」とうたっているから、たぶん昨日も一昨日も、この人は「あなた」を思っていたんでしょう。「ハッピーエンドの映画をイメージして」「唄うことは難しいことじゃない」「雨の夜も冬の朝も」

 

 

■やさしくなりたい

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 初めて好きになったのはこの歌かもしれません。家政婦のミタのEDでしたね。これほどEDにふさわしい曲ってあるかしら、と思うほどすき。

 やさしくなりたい。ってどうしてそういう風に思うんだろう。わたしなりの答えをここに書いておくならば、それは過去を後悔しているからです。なにかを悔いたり、申し訳なく思ったり、あのときああしていればと思ったりするから、今日やさしくなりたいと思う。

サイコロ転がして
1の目が出たけれど
双六の文字には「ふりだしに戻る」
(略)
「1つ進めたのならよかったじゃないの」

 強くなりたい、という言葉と、やさしくなりたい、という言葉は、一緒に語られることが多い。でもわたしは強くなくてもやさしい人はいると知っている。そういう人がすこやかに生きてくださるためにも、世界がやさしい人であふれますように。

 「愛なき時代に生まれたわけじゃない」「キミに会いたい」という終わりもすきです。けっしてわたしたちは可哀想な時代の人間ではない、ということ。

 

 ■月光

 

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あっちの席でオッサンは言ったよ
「オレは百人の女と寝たぜ」
こっちの席じゃ若者が
「男の価値はなにで決まるのかな?」
そしたらとなりの女が
「そんなの家族に決まってるでしょう」

月も見えない夜に なにかが光り出した

 どうしてこの歌がこんなにすきなのか分からないのですが、とてもすきです。そんなの決まってるでしょう、って言う人のことが好きなのかな。「愛されたいと願う人でここも順番待ち」な世界なんだけど、月も見えない夜なんだけど、でもたぶん君のことがほんとうに好きです、ほんとうってなんなんだろうと思うこともあるけど、でも気のせいなんかじゃありません。という歌なんだと思います。いや、どういう歌だっていい。とにかくすきです。

 

■世界中の海の水

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 もうタイトルがいいですよね。タイトルが目に入ってきた瞬間、おお、きっといい歌なんだろうなあと思いました。世界中の海の水、どんなふうに使うのだろう、と誠に好奇心がくすぐられますね。サビの歌詞のなかで、「世界中の海の水でも この火は消せない」というふうにうたわれるのです。愛はいつでも大袈裟に言うほうがいい。

 パスカルは「人間は一本の葦である」と言いましたが、「この葦の命を奪うために、宇宙はなにもする必要がない」と続けました。「ただ少し力をこめれば十分である。葦の命を奪うために、宇宙は全力を出す必要はない」「しかし、この葦は考える葦である」「葦が考える時、思考する時、この葦は、葦をころす宇宙よりも、はるかに尊厳がある」「宇宙が我々に及ぶことはない」「ここに、道徳の原理がある」(記憶を頼りに書きました ぜんぜん違ったらごめんなさい)

 それと同じで、世界中の海の水も、たった一人の人の愛を押しつぶすには足りないわけです。

 

 

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 終わり。

 今日はじめて聞いた曲も結構ありました。いい歌手だなあ。そして、サブスクっていいなあ。Apple Musicでは斉藤和義のうた、以上の歌すべてを含め、けっこうたくさん聞けました。たぶんほぼ全曲配信しているのではと思います。(ぜんぜん調べものをしていない記事ですみません 個人の日記なので……それではさらば……)