@particle30

惑星イオはどこにある

Polaris製本について

長くなりそうなので、先に用件だけをきちんと書いておこうと思います。Polarisという作品を製本いたしました。わざわざここまで見に来てくださっている方ならご存じのように思いますが、Polarisは全文WEB公開している作品です。製本にあたってもWEB公開したままなので、わざわざ本として手に取っていただく「価値」というものは、まあお伝えしづらく分かりにくいものでもありますが、それでもお気が向かれたら、どうぞ手に取っていただけたらと思います。また、買わない方もよかったらこの記事は読んでいってください。

 

というわけで、Polarisが本になります。

 

f:id:meeparticle:20201117224926p:plain

(こんなイメージです)

 

文庫本、箔押しあり、小口染め、ということでなかなかのお値段になってしまい恐縮だったのですが、そもそもWEB掲載済みの作品を製本するわけですから、すこしは趣向を凝らした楽しみがないと……ということで、こういう仕様にさせていただきました。

 

お品書きは告知ブログにて、推しポイントはウェブサイトにてご紹介しておりますので、本記事ではただただPolaris製本にあたって思ったことを日記的に書いていければと思います。長くなるかと思いますが……。

 

 *

 

まず、この本の素晴らしいカバーデザインはtamaさんに作成いただきました! デザインを受け取ったときは多少不意打ちだったこともあり非常に驚きまして、しかし一目で気に入って(という言い方をするのも烏滸がましいですが)、その勢いのままに、使わせていただいてもいいですかとお願いしてしまいました。この、少し緑がかったところもある青色も、目と恒星とを見立ててくださった半円も、とても好きです。美しくも苦しすぎるあの作品を、ひとつの粘土で固めてくださったように思えてとても嬉しかったです。また、製本に向けて崩れかけていた気持ちをがっつり立て直していただきました。(表紙を作るのが嫌すぎて頓挫しかけておりました)

 

デザインとあわせてコンセプト文までいただいておりますので、こちらにも勝手に再掲いたします。

全体に鯨幕をイメージしたデザイン。赤くねじれた線は本来あったはずの「死」を反転する場面を想定した。表紙では北極星を中心にまわる星の軌跡と、中央にあるべき北極星の空白・欠落を表現し、同時に、半月のような閻魔の目を隠しテーマとして追加した。

 

 

愛とは欠落のことですよね。と昔お友達と話し合ったのを思い出します。(あくまでも物語のなかにおいてのモチーフとしての「愛」は)なにかを失っている人間、足りない人間、そのままではいられない人間が、半身を求めるように探すもの。それが「愛」。だから主人公は最初はなにかを失っていなくてはならない。それを探す旅のなかで、相手を見つけられれば、その欠損がたとえなんであろうとそれをただ「愛」と呼ぶ。それがその人にとって「かけがえのないもの」なのだと、周囲の人に分からせるために、邪魔されないように、約束をするために、これが大切なものなんだと黙って分かってもらうために。「愛」にはたしかに免責の効果があります。なんでもかんでもとは言えませんが、それでもそこそこ大抵のものは、「愛」だと呼んでしまえば世間から手出しのできないところに雲隠れしてしまうのです。この白い瞳はまるで薄雲を伴って夜を行く月のようにも見えますね。月には箔押しをかけました。このへんの細かい装丁仕様は、tamaさんにお伺いしつつも最終的にはわたしのほうで決めてしまったので、実物で上手くいっているかどうかは分かりません。上手くいっているといいんですが……

 

そしてこの美しいカバーに加え、小口染め! ほんとうに、一度やってみたかったんです。書店で、小口染めの本を見るとつい買ってしまいそうになるぐらいこの仕掛けが大好きです。本に表情があるかのように感じられるからかな。星の光みたいな蛍光イエローの輝きを感じながら、Polarisをお楽しみいただけたら嬉しく思います。自分でも手に取って再読するのがとても楽しみです。Polarisはブースに直接搬入なので、当日まで出会えず……これも、色々イメージ画像を作って想像は膨らませてみたとはいえ、ちゃんとカバーデザインと馴染んで合ってくれるかどうか、結構心配ではあるんですが。

 

また、マルヤさんの解説も7Pにわたり収録されております。こちらは現状本の中でのみお読みいただけるものとなっておりますので、書籍ならではのものとしてぜひお楽しみください。丁寧な解説文を最初に頂いた時には驚いてしまって、かなり長いお手紙でお返事してしまいました。そのぐらいの熱量のものです。ちょっとここで2行ぐらいご紹介してもばちは当たらないかなと思いつつ、いやいややっぱり紙面で(Polarisを読み終えた直後に)読んでいただくのが良いでしょうと思うので、我慢しようかと思います。

 

他にも、この本を「本」になるまで見守って下さった方が何名かいらっしゃって、その方にも御礼申し上げたいぐらいなのですが、さすがに個人の日記に名前付きでエピソードをつらつら書かれたら恐ろしいものかと思うので自重いたします……。

 

さて、そろそろ自分の話もします。あの作品について色々と弁明したいことはあるのですが、せっかくここまで育ってくれたわけなので、今は何も言わず、巣立ちを見守るような気持ちで、この手から離れていく本達を見守っていようと思います。

 

先にも少し触れたかもしれませんが、改稿作業はたいへんな難路でして、けっこうつらいものがありました。まあ誰しも経験があるかもしれませんが、「こんなもの誰が読むんだろう」の呪いが順当にわたしにも降りかかりました。書き手としてのわたしと、読み手としてのわたしと、校正者としてのわたしと、推敲者としてのわたしとはみんな少しずつ言うことが違っていて、しかも書き終わったあとには「書き手としてのわたし」はもういなくなっており、交信もできないわけですから、存在しない人間を守っているような気持ちになって全部がどうでもよくなってしまったり、本当にごちゃごちゃとしたことが沢山ありました。どうして入稿作業までたどり着けたのかよくわからないぐらいです……(いや、間違いなくカバーデザインと解説文のおかげだと思いますが……)

 

完結が5月頃、色んな人に読んでいただき様々なコメントをもらって(まああんな分かりづらい話を、みなさんどうもありがとうございました)、いただいた修正点とひとつひとつ向き合い、真摯に反映したり、今回は忘れさせてもらうことにしたりしながら、なんとか直していきました。過去の自分の機嫌を損ねないように、昔の自分はゆるしてくれるだろうかと考えながら手直ししました。

 

たとえばひらがなの使い方。意外とPolarisはひらがなが多いんですよね。漢字でもいいはずの所が開いてあったりして。細かい教官の顔をしてすべて漢字に切り替えてやろうとするわたしを、押しとどめて「そのままにしといてやろうよ」とか言い出すわたしもいたりして、自分のなかで大喧嘩しました。しかし結局できるだけ、書いた当時のわたしのまるさをそのままお届けできるようにしたつもりです。いややっぱりこれは分かりづらいだろう! と思われるところだけ、修正していきました。少しは読みやすくなっているといいんだけど。

 

そのため、ご指摘いただいたのに直っていないところ、みたいなものも結構あるかと思います。言葉を使ってなにかを表現するのはいつも難しく、間違えてしまったり言葉が足りないことばかりで、だからこそ細かく言葉の指導をしていただけることをとてもありがたく思っています。懲りずにまた色々教えていただけると嬉しいです。

 

Polarisはあんまりプロットを切らずに書いた作品だったので、自分でもいつ終わるのか分からず、いつ終わらせようかと思案しながら書いた作品でもありました。あんまり長々続けてもつらいよなあ、と思いつつ、振り返るとちょっと短すぎたような気もしたり。

 

小説を書いているそのときその瞬間は、じぶんの精神のために書いています。でも、「未来のわたし」が褒めてくれるだろうか、と思うこともあります。でも出来上がってしまったら、それを「未来のわたし」が受け取ってしまったら、あとは皆さんにお見せして、どう思いますか、とお伺いして、その声だけを聞く人間にしばらくなっていたいと思います。……という精神でいられるのはだいたい改稿し終えて二週間ぐらいの間なんですよね。本を売り出す頃には、Polarisというのはもうあんまり自分の作品とも言えなくなっているかもしれません。面倒を見るべき他人が書いた作品だというような気持ちで、宣伝やら発送やら頑張ろうと思います。感想をもらえたら、その時だけむかしの私が蘇って喜びだすと思います。

 

さて、今年は人生が少しずつ切り替わっていくのを感じていく一年でした。来年はもう少し、一つ一つのことをしっかりと終わらせていきたい。どうしてもそうしなければならないほど、ある種切羽詰まっているので。たった一つの目的のためになんらかの思考をわざわざ固めてみることもありでしょうし、すべてを発散させて駆け出してみるのもいいでしょう。手だけは止めない一年でありたいなあ。

 

そういえば、不要なコンテキストが付与されそうだったのであえてとくに書かずに済ませたのですが、実はこぐま座ポラリスも連星です。連星の公転距離の遠さを知らない「おれ」は、互いを巡る連星のことを「幸せそうだ」とわらうんですけれど、彼が適当にすきだと言ったあの星も実は連星であるわけです。

 

 *

 

むかし、「幸せじゃなくても価値のあるもの」を書きたいと思っていました。不幸でも構わないんだ、というメッセージを表現できればと思っていました。今は、もう少し違うメッセージのほうに興味がありますが、それでもわたしはたとえ一時でも自分の軸として「幸せである必要なんてない」というメッセージを選んだことがある人間です。「幸せってなあに」ということをきみと考えるよりも先に、「幸せよりも大切なものってなあに」ということのほうから決めたい。もう少し、愛の話や生き方の話を書こうと思います。書けるうちに。なんとか文章を書いていられる間に。

 

 *

 

なんの話? Polarisの話でした。最近、この本も含め、ちょっと攻撃的で辛気臭い話ばかりでしたが、(すみません、直近の次も猟奇的で人を小ばかにした話なんですが)、そろそろハートフルで優しく甘い物語も書ければと思っています。そんな話書いたことあったっけ? 分からなくなってしまった。あなたがどんな方であろうと、こんなところまで読んでいただけて、どうもありがとうございました。