2020年に読んだ本の話
「2020年」が「去年」であるということについて未だに驚き続けています。
というわけで今年も読んだ本について記事を書こうと思います。
ちなみに、2019年に読んだ本の話はこちらです。
だいたい読んだ順です。(ラスト2作以外)
1.バッタを倒しにアフリカへ
これ今年なのか……年始、飛行機のなかで電子書籍で読み終えました。2年ぐらい前のことのような気がする。学者さんのエッセイもの。大量発生して「バッタの海」が出来ると農作物に深刻な影響があるというお話。とても読みやすく、また(極度の虫嫌いの人以外には)誰にでも勧められる一冊です。
2.冷たい密室と博士たち(森博嗣/すべてがFになるの続刊)
2巻目にしてかなり男性向けラノベ感が出てきたな、という感じ。1年1冊ずつ読もうかなーとも思っておりましたのでそろそろ次を読む頃合いなのかもしれません。
3.不思議な図書館(村上春樹)
まだ自由に外出できたころに、表紙があまりにカワイイなあと思ってジャケ買いしました。中身もとてもよかった。「ここは牢屋じゃない」「そうだよ」「そうなんだよ」
4. なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか
巻末の本屋リストが良かったです。
5. ケーキの切れない非行少年たち
もう本屋でしばらく平積みされているので、そろそろ読んどくか……と思って読んだ。タイトルと帯がやはり目立ちますよね。
6.粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う
「粘菌について書かれた新書」というよりも「粘菌の研究でイグ・ノーベル賞を取った人のエッセイ新書」という感じ。最初からそのつもりで読むならぜんぜん面白い。(粘菌の話も書いてありはします)
7.海底の支配者 底生生物-世界は「巣穴」で満ちている
研究者のエッセイや新書をすこし多めに読んだ一年だったかもしれません。底生生物が好きなのでなかなか面白かった。
中島らも初めて読んだんですけど、とっても純度の高いエンタメという感じでものすごく面白かったです。全3冊とは思えないぐらいさらさらっと読んでしまった。小説部門では今年一番だったかも? ところで集英社文庫、裏表紙のあらすじで結構なネタバレしてくるところほんとうにどうにかならないのか。
9.わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
人間というものがどれほど適当に文章を読んでいるか、を事例ベースで明らかにしてくれる本。うーん、「書いてあること」そのものよりも「書きっぷり」のほうを読んでいるようなあ、人間って。中身では批判的なことを書いていなくても、なんとなく語尾や接続詞で批判的っぽく書くとその文脈だけが頭に残ってしまうというか。
10.完全教祖マニュアル
たいへんケーハクな本(に見られるように工夫された本)だなと思いつつ、楽しく読ませていただきました。いつか教祖を目指すことがあれば参考にします。
11.日の名残り(再読)
ちょっと事情があって再読。初読のときには「ダラダラしたおっさんの旅行記だな」と思ったものだったが、2回読んだことで、雑談のように見えていたダラダラ箇所もひとつひとつ後半につながってくるパズルのピースだったことに気が付けた。カズオ・イシグロの作品はとにかく「思い返し」て、「語る」という手法をとっている。現在進行形の物語ではなくて、確定してしまってもう覆せない過去の「語り」。それはたしかに夕暮れと相性がいいはずで、ラストシーンでは泣いてしまった。決断する人は先に進むことができるが、選ばなかった人も夕暮れは楽しめる。
12.僕の知っていたサン=テグジュペリ
「星の王子さま」を書いたサン=テグジュペリ。その大親友、レオン・ウェルトが、サン=テグジュペリの死後に彼を思って書いた本。本当にとても品格ある文章で、こんなものを書く人が「サン=テグジュペリの友人」という立場でしか知られていないとは勿体ないことだな、と思った。『死んで価値が出る人間はたくさんいるが、君は君の死よりも価値がある』とか『憐みは責任の拒否に過ぎない』とか『その人の一部分がわが友ではないような人間はこの世に一人もいない』とか……付箋結構貼ったのでまた読み返したい。
13.ボッティチェリ 厄病の時代の寓話
今年発刊の本。なので、この「疫病」というのは勿論かの病のことです。
6月頃、こんなブログ記事も書きました。
14.翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった(金原瑞人)
この翻訳家さん、とても好きなんです。翻訳家とはなにか? 翻訳家は、偉大なる原作に対する裏切り者であり、代弁者であり、間に合わせであり、作品にとっての第二の母親であり。とても軽快で読みやすいエッセイ集だった。「一日練習しないと、そのぶん、きっかり下手になる。ところが、毎日やったからといって、毎日そのぶん上達するかというと、絶対にそんなことはない。つまり、下手にならないために練習をするわけです。ところが、毎日練習をしていると、ある日、いきなり、ぽーんとうまくなる」
15.ニンギョウがニンギョウ(西尾維新)
ずっと前に1話だけ読んで放っておいていたのを読了。不条理で脈絡がない、でもやっぱり西尾維新が書いたなあと思わせる軽快さ。この本は「使い道がなかった好みの比喩」の墓場なのではないかと邪推したい。 Kindleでも売っているようだけど、箱入り、古めかしいグラシン紙で巻いてある、染みがついたみたいな表紙と、わざわざ特注したらしい堅い感じのフォント(これがまたとっても「古本」らしいんです)も込みで作品でしょうから、実書籍での購入がオススメです。古本屋でよくわかんない本を手に取った時のウキウキが再現されている。
16.ローマ帽子の秘密(エラリー・クイーン)
エラリー・クイーンはやはり解決編直前にある「読者への挑戦」のページがとてもいい。冒頭の読者馬鹿にした感じも好きですが。
17.よみがえる変態(星野源)
暇な朝に一編ずつ読み進めていた、親しい誰かのブログを読むような感覚で。なかなか楽しませてもらっていたら、中盤に真っ黒な一枚のページが現れた。なんの演出だろう? と思いつつ読み進めると、そこには壮絶な闘病の記録があって、こういう本だとは全く知らなかったので素直に驚いてしまった。
「地獄でなぜ悪い」も、発表当時の状況を知らず、なんのコンテキストも付与せずにただただ楽曲だけで楽しんでいた。ほかのMVはちょっと自意識過剰ぽいのに、意外と自分が一切出ないアニメMVとかも作る人なんだな、ってカラオケで思ったりとか。来週死ぬかもしれない人が「同じ地獄で待つ」という歌詞を書いたこと。
18.妖怪 YOKAI(角川ソフィア文庫)
百物語を書かなくてはならなくなったために慌てて様々な妖怪の勉強を始めました。とはいえ、結局あんまり使わなかったな……。
文章が知的で明瞭で心にせまる美しいものなので、これはとても奴隷が書けるものではないでしょう――ということで、120年間、誰もノンフィクションだと信じず「小説」だと認識されてきた告白書。
これほどの文章が見過ごされていたとは。 とはいえ、文章が120年の眠りから覚めるためには、これを事実と認定するための研究者の不断の努力があったのでしょうから、ある意味「人間ってすごい」ということでもあるんでしょう。こういう魔力を持つ作品が、まだまだ世界には眠っているんだろうなあ。
20.ジキルとハイド
新潮文庫夏の100冊で購入。この作品は「二重人格」の代名詞としての存在だけにとどまらず、人間の悪意とその飼い慣らしを描いた名作としても知られるべき。怪奇小説チックの味わい。第三者が対象人物と近づき、その秘密の存在を知り、近づいていく。さらに話が展開し、詰まったところで手記によって全てが明かされる、という構図自体は「こころ」とも一致している。やっぱり書簡型は人の内面を曝け出させるのに向いているよなぁ。短いのに濃厚で、訳文もよく、とても面白かったです。今まで児童版しか読んだことがなかったのですが全然違いました。
21.アンダーグラウンド
地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー集、777P。
サリン事件のことは殆ど知らない。だから、この本の中で「前提条件」として書かれいっそ隠されている、「事件後のマスコミの動き」だったり「騒ぎ立て」がなんのことなのか分からない。一人ひとりの日記を覗き見させてもらったかのようなリアルなインタビューには心動かされてしまったんだけど、それ自体がもう正しいことなのかどうかよくわからない。わたしは人間が悲劇に立ち向かう方法を知りたいし、考え続けていきたい。 「あなたは誰かに対して自我の一定の部分を差し出し、その対価としての『物語』を受け取ってはいないだろうか?」
22.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
すみません、書き漏れていたので読み順的にここではないのですが感想を書きます。坂本真綾がステイホーム期間に「皆様本でも読みたいでしょう」とオススメ本をいくつか書いてくれていて、その中にあがっていた一冊でした。エッセイ大賞も取っている本なので、もうみんな言っていることだと思いますが、ほんとうにほんとうに良かったです。2020年読んだ中で、一冊どれかオススメしてと言われたら絶対にこの本にします。
23.はじめての構造主義
これも書き漏れていた一冊。あ、哲学ってこんなに面白かったんだ、文系の人ってこんなに面白いことしてたんだ、と目から鱗的な一冊でした。哲学に関する本をもっともっとたくさん読みたいなと思っているので、オススメ本あればぜひ教えてください。ほんとに。
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今年はステイホームしていたこともあって去年よりは本を読んでいるはずだったんですが、ちゃんと記録できていない本もかなりあり、また結構意図して「はずれ」を飲んだ年でもあったので全冊ご紹介は避けました。 また、同人誌は除いています。
「面白かった」と書いた本はどれもとってもオススメです。
いつも通り、2020年時点でのベストテン(今年読んだ本だけに限らず、「今まで読んだ本」すべてのなかで)を書いておこうと思います。
1.「魔性の子」
2.「月と6ペンス」
3.「こころ」
4.「エズミに捧ぐ(ナインストーリーズ)」
5.「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」
6.「孤島の鬼」
7.「屍鬼」
8.「わたしたちが孤児だったころ」
9.「死に至る病」
10.「ひらいて(綿矢りさ)」
2021年は、文系の新書やエッセイ本をたくさん読む年にしたいです。人間のこころのことを考える一年でありたいなあと思っているので。
では、今年もどうぞよろしくお願いします。