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惑星イオはどこにある

「モクシロク」Z版について

 

夜北硝水さんの日記集「モクシロク」についての詳細が公開されました。

 

 

 

日記集「モクシロク」は、X版/Y版/Z版の3つのバージョンを持つ書籍です。
掲載されている記事内容に変更はありませんが、装丁や編者や掲載順や体裁等のすべてが版によって異なっております。

このうち、わたしは、Z版の装丁・編集・前書きを担当させていただきました。*1

 

 

しょーさんご自身は各種作業が大変手早い方ですが、わたしのほうは全てにおいてゆっくりやる方ですので、この本についても2か月以上の納期をお願いして作業に取り組みました。しょーさんだけで出されるならもう何か月か早く世に出るはずだった本の足を引っ張ったわけですので、せっかくですから、このような記事で編集内容の振り返りなどを行わせていただければと思います。

 

 

Z版について

Z版では、わたしによる「前書き」、「年表」、「逆引き集」を付けております。

また、本文も、算用数字・漢数字の編集やルビ振り・用語解説等で手を入れております。

 

編集について

 

「色々読みやすくしました。」

もし、わたしがこの本の著者(編者ではなく)であり、編集方針を聞かれる機会があったなら、ただ一言そう答えたと思います。自分が書いたものを自分で編集するということは、どこか制作の続きを行っているようでもあり、出し忘れた宿題を回収しているようでもあり……。本をつくるたびに言っていることでもありますが、書いているときの自分とそれを改めて見直しているときの自分と最後に本になった時に読む自分とは、三人ともまったく別の人間であって、しばしばこの間で喧嘩が起こることもあります。

 

しかし、今回は原稿をいただいてから二カ月間、わたしは「編者」としての自分に徹することができました。

 

編集について、わたしがこんな編集されたらほんとに嫌だろうな、と思うようなことをいくつかやっています。例えば硝水さんがルビを振るのをお好きでないことなんて百も承知ですし、硝水さんからしたら「年表」も「脚注」も、蛇足・無用の長物・明らかに過度な補足であって、日記中に書いていることをあらためて解説されるのなんてちょっと気まずい感じもあるでしょう。

 

しかし今回は「完成するまでお互い見せあわないこと」という縛り条件を逆手に取って、原稿をお渡しするときに、今回はこのように変更してしまいましたので、と笑って押し通すことにしようと決めました。著者のこだわりがあるかもしれない部分についても、一度は思いを馳せつつ、しかし必要だと判断したときにはためらわず編集をかけました。漢数字と算用数字の変換や、全角半角の調整、また掲載順の決定等のことです。個人的には、自分で編集するとしたらあそこまであからさまに類似の記事を並べることはできないような気がしております。とにかく、日記のなかに書いてあることを「読者」がくみ取りやすいように――それだけを意識して編集しました。

 

とはいえ、こんなに色々とあからさまですとやはりお嫌なんじゃないか、と思ったりもしたので、一応前書きにて言い訳を言ってから始める構成にしました。

 

注釈と年表について

 

日記というのは、その日あったことやその日感じたことを書く場所ですので、どうしたって時事性が伴います。むしろ、そのリアルタイム感が心地よいメディアだとすら思います。

しかしあれらの記事を書籍という形に落とし込む以上、何年か後にこの本を開く人も、わたしの想定する「読者」に含めるべきだろうと思いました。そしてその方に、2020年という年の異様さを思い出してもらえるよう、あるいは知ってもらえるよう、年表や注釈を付けました。(ただ、年表については、あまりに悲惨なことをたくさん書いてもしょうがないよなあ、という感覚もあり……。別に2020年という年の異様さを残すための本というわけでもありませんから、あくまでも「読者」が置いてきぼりの気持ちを持たないよう、寂しく思わないよう、それだけを願ってこの年表を付けました)

 

2020年――久しぶりに会った人や、長らく連絡を取っていなかった人に、去年、一番した最初の挨拶はなんだったでしょうか。わたしは、途中から気を付けていたにも関わらず、結局のところすこし場がしーんとすると、これを聞いておけばまあ大丈夫だろうというような手軽さに負けて、結局あの災厄の話を持ち出してしまっていた気がします。最近どこかへ行った? とか、そういう定番の質問がしづらくなったということもありますが。

2020年は新型コロナウイルスによる影響に浸濡れになった年でしたが、でも、それだけの年というわけではありません。世界をとりまく大災厄が起こっていたこと自体はどうしようもない事実ですが、それはそれとしても、人間の一日一日の生活(ご飯を食べて仕事をしてお風呂にはいって睡眠をとって)は結局大枠変わらずに続いていたりもしていて、悲しいこともしんどいこともみんなあったと思いますが、それだけの年ではなかったということ。

「年表」を付記することで、そうした色を付けすぎてしまわないよう、巻末付録に留めるというところと、あまりに悲惨すぎることばかり列挙しないというところを気を付けました。

 

前書きについて

 

実は、最初はもうちょっと違う舵切をしていたのですが、途中で、やはりこの本の最大の特徴である「著者ではない者による編集」という部分をもう少しフィーチャーして整理しなおすべきかなと思い直して書き直しました。

 

Z版「前書き」については、しょーさんのツイートにて少しだけお読みいただけますので、よかったら。

 

 

最初はお気に入りの記事のことや、硝水さんのブログを読み始めた時のエピソードなどを書いておりました。それはそれで面白かったですし、他人が寄せる「前書き」としてなかなか価値のあるものであるようにも思いました。しかし改めてこの本のコンセプトに立ち返ったときに、いや、もっとこの本にとって、導き手となれるような文章を書くべきだ、と思い直しました。

 

 

 

 

だからやはりこの本は一つの献身の結果です。

 

わたしにとって、「小説を書くこと」「文章を書くこと」はいろんな理由や背景や目的を伴う行為です。でも、「本を作ること」は、いつも誰かへの献身のつもりでおりました。たとえ自分のために書いた自分のための小説だったとしても、それを本にするときには、この本を手に取ってくれる人、読んでくれる人、そしてこの本自身のために、なにかを捧げて全てを手伝うような気持ちで、いつもいます。

 

 

 

他人の日記記事を編集するという、なかなかない機会に恵まれ、稀なる栄光に浴することができたこと、心から嬉しく思います。

いつも通りの祈りで終わります。すこしでも楽しんでいただけますように!

 

 

 

 

 

 

※2023/01/18追記※

gai-aさんによる「モクシロク」のロングインタビュー記事が公開されました。

こちらもよければ合わせてお楽しみください。

 

note.com

 

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*1:こちらで募集されていたのを拝見しお声かけしました。
https://twitter.com/garasssu/status/1372385016097828865