ぼくはまだ2020年ぐらいの気持ちなんですが……。
(ちなみに2020年に読んだ本の話はこちら)
今年の分も書いていこうと思います。
「おすすめ本まとめ」じゃなくて「読んだ本の話」なので、もうちょっとこういうことも書いてあればよかった~的な感想も含みます。
1.クララとお日さま
日光浴が大好きなAIのお話。AIにつきがちな設定――たとえば、感情の波が高くない、体温がない、どこか冷静……のような要素たち、つまりこの「血が通っていないかんじ」も、「日光浴が好き」という設定が付くだけで、「動物ではなくて植物寄り」の生命に思えてくるからあらふしぎ。動物のように肉をまとっていないやさしい生きもの。クララの視点を取ることで、人間が、最後にはどこか冷たい生き物のように見えてくる。読了直後は「うん、いい文章で、いい小説だったね」という程度の感想だったのですが、日を追うごとに、じんわりと良さが広がってきて、一年経った今ではかなり大好きな小説です。映画化が本当に楽しみ。
「わたしを離さないで」と同様、SF的モチーフを持ち出してくるのに、そのモチーフにありがちな特徴やクリシェがあんまり発動しないために、独自の世界観がしっかり出来上がっている感じ、ほんとうに好きです。
2. 子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から
エッセイ本。めちゃくちゃ良かった。最初の書き出しの部分を読むだけでもこの本の良さがわかると思うのでよかったら試し読みしてみてください。
どんな人にもおすすめしたい一冊。
村上春樹の「卵と壁」のスピーチが好きなんだけど、まさにこの本も徹底的に「卵」側についている。複雑でどろどろしていて割り切れない、でもそこに確実にあるリアル。実際に起こっていること、手触りを知っている人でないと思考することのできない問題があるということ。
あと、日本の幼稚園ってものすごく保育士の数が少ないらしい(イギリスに比べると)。
3. ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2
↑の「子どもたちの階級闘争」と同じ著者のエッセイ。こちらは息子さんとのエピソードが多めになっている。
1巻目はエッセイ大賞を取っていてかなり人気のシリーズ。2巻目もとてもよかったことは覚えているが、なにがよかったのか、1年経ったいまでは全然覚えていない。また読み返そうとおもいます…………
4.ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと
仕事に一切のやる気が出なくなっちゃったとある夕方のこと、早めに退勤してKindleでこれを買ってベッドで寝転びながら読み始めた。二時間後ぼろ泣き。
耳の聞こえない母親が周囲に笑われるのが嫌で、母親を守らなくてはいけないと思う息子が母親の代わりにあれやこれやをやってあげたりするんだけど……というようなエピソード詰まったエッセイ本。母親を守るつもりで自由を取り上げてしまうということ。
5.産声のない天使たち
生きたまま産まれてくることのできなかった赤ちゃんたちに関するルポ本。
病院によっては、生まれてくる前にお腹のなかで死んでいることが分かっても無痛出産に切り替えられなかったり、他の母親と同じ分娩室で同じように痛い出産をしなければならず、さらにすこし以前までは子どもを抱くこともできない病院もあったんだとか。
自分があんまり想像力のない人間だという自覚があって、こういうルポ本を読まないと世界にあるはずのいろんな感情や体験を見逃してしまいそうだな、という気がしています(命に関わる話は、直接当人から聞けるような話でもないし、もし聞く機会があっても冷静に受け止められないと思うから、テキストという形で世に出してもらえるありがたさを感じます)
6.すいません、ほぼ日の経営。
2年ぐらい前の誕生日にもらっていた本。
糸石重里、やっぱり言葉を使うのがほんとにうまい人。「うちは他の会社とは違う、特別」って意識が前にガンガン出ていてちょっと胸焼けしそうなぐらいでしたが、まぁでも社長ってそんなものなのかも。読みやすい本でした。
7.猫を棄てる 父親について語るとき(村上春樹)
村上春樹のエッセイ本、とくに旅エッセイ本とかは結構好きでよく読んでいる。
親、という存在。人生の序盤を埋め尽くし、人ひとりの形成に大きく影響を与える存在であるにも関わらず、実際の影響力よりもその存在感はぼんやりとしていてどこか曖昧な気がする。思い出そうとしないと思い出せない、というか。
村上春樹の世代の人は、父親が戦時中に人を殺したことがあったのかどうかをずっと気にし続けていなければならなかったんだなあ……。そういえば私の母方のおじいちゃんは人を殺したことがないと言ってたけど、父方の方はそういえばどうだったのかなあ、とかぼんやり思ったりしていた。
8.脳から見るミュージアム アートは人を耕す
対談本。話が「美術館の運営は公共の長期的利益を生む(文化を耕している)」に終始していたが、もうちょっとつっこんだことも知りたかった。そりゃ公共の長期的利益のために美術館も図書館もあるでしょうけれど、そんな建前的一文は分かり切っているわけで、本であるからにはもう少し説得力ある実例が欲しかったというか……(ただただ「とにかく利益があるはず」というだけの主張に見えてしまってよくなく)
文章は読みやすくさらさら読めるので、とりあえず一冊本を読みたいときにはちょうどいい。というかまさに、2時間暇になった時間があったので適当に新書買って読んだ感じでした。
9.90分でわかるキルケゴール
なんか読みづらくて、たぶん90分以上かかった。
全体的な文章のテイストが好みに合わなかった。著者と合わなかったのか訳者と合わなかったのかどちらなのかはわからない。実際に喋ると面白いおじさんの、ブログの文章だけ読んでる感じ。本来なら質問して補えるところの不足が目立つというか。教科書的でもないし、かといって入門書というわけでもないような、ターゲットのよくわからない本だった。この著者自身のファンなら読みたがるような気もするが……シリーズこれだけ出てるってことは有名な人なのかしら。表紙のデザインは好きです。他シリーズを買うことはおそらくないと思う。
こういう入門本は、やっぱり「おすすめ!!」って強く誰かに推されているものを買うのがよさそう……。
10. よくわかる思考実験
内容自体はWikipediaで十分だろうという程度の薄さだが、まとまっているということに価値を感じる人は買ってもいいのかも。「思考実験」というものに強い興味はないがしかしそれについて知識を得なくてはならなくなった……というぐらいの人にオススメかもしれない。「思考実験」というワードをすでに知っていて、それが好きな人はもうすでに知っているラインナップだと思います。特に解説が厚いわけでもない。
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オススメ度としては、小説なら「クララとお日さま」、エッセイなら「子どもたちの階級闘争」が一番です。
2021年は、あんまり小説を読まなかった一年だったかもしれません。今年はもうちょっと乱読気味に色々読めるといいなあ。
さて、いつも通り、2021年時点でのベストテン(2021年に読んだ本だけに限らず、「今まで読んだ本」すべてのなかで)を書いておこうと思います。去年読んだ本からのランクインはなかった。残念。
1.「魔性の子」
2.「わたしを離さないで」
3.「エズミに捧ぐ(ナインストーリーズ)」
4.「ライ麦畑でつかまえて」
5.「パズルランドのアリス」
6.「孤島の鬼」
7.「ゴーストハントシリーズ」
8.「去年を待ちながら」
9.「死に至る病」
10.「ひらいて(綿矢りさ)」
今年もいい本に出会えますように。