@particle30

惑星イオはどこにある

2022年に読んだ本の話

 

今年も書こうと思います。2021年に読んだ本の話はこちら。

 

図書館の利用にハマっていた時期があるので、こう言うのもなんですが「買うほどではない本」をたくさん読んだ一年だった気がします。ではわたしが「買うほどだ」と認識して購入まで至ったはずの家に溢れている書籍たちはどうなっているかというと、レンタル品である図書館本が読まれる傍ら殆ど手を付けられることがないという可哀そうな状況でした。

 

 

 

人間の絆

amzn.asia

 

サムセット・モームの自伝的側面のある小説。2022年最初に読んだ本にしてベストオブベスト。多分「今年の十冊」の中にも入ると思います。

 

あいかわらず冷淡で読みやすい文章と、淡々と続きながらも手触りのある人生。プロポーズを断られたあとに、「でしょうね」って笑い飛ばすところが大好き。主人公のフィリップは非常に湿度の高い人間なのに、「紳士である」がゆえか、他人に気を遣わることを恐れているかのような繊細さと激しさがある。かといってそれだけではない不思議な大胆さ。ほんとうによかった。

 

礼儀正しく品性のある人間でありたいフィリップにはたしかに純白の善性が保存されていて、それがゆえに損をすることも多いんだけれど、良心への呵責がないという報酬をこの人が喜んで受け取ることができますように。でもこの人にとって、結局「世界っていいもの」だったりするんだよな。それ自体に苛立つことがあったとしても。

 

訳者は金原瑞人で、本当に美しい訳文でした。同作者・同訳者の「月と六ペンス」という画家と物書きにスポットを当てた小説もかなり好きです。

 

 

西洋美術とレイシズム

 

西洋美術を軸にして、歴史的なレイシズムについて取り扱った一冊。

 

語り口は雄弁。宗教絵画を、それが描かれた当時の時代の思想が刻まれたスナップショットとして取り扱っている。中盤ぐらいまではシンプルで分かりやすく読みやすいが、後半はレイシズム的絵画の例示のみが続きすこし飽きてくる。あれもレイシズム、これもレイシズム、と例示を続ける本であり、つまりなにかしらの結論を出すタイプの本ではない(別にそれでいいと思うけれど)

 

なお、こういう新書にありがちなように、ある程度の聖書・歴史理解を前提としている。

縞模様が悪魔を象徴すること、三角帽はユダヤ人をあらわすこと、丸い帽子はジプシーをあらわすこと、などは知らなかった。神話のアトリビュートとかと同じく、知識が無いとそもそも読めない絵になっていることもあるのかな。

 

聖書のなかで追放された親子の絵がさまざまな時代で描かれているんだけれど、その親子の身体的表現が、その絵画が描かれた「当時」に迫害対象だった人々(黒人、ユダヤ人、ジプシー)に近くなっているというところは興味深かった。

 

 

シュルレアリスムとは何か

創作家向けの講義録。そうとは知らずに読んだので、「皆さんも作品を作るときにはこう思うと思いますが~」とか「前回宿題で出した~」というような話がぽろんと出てきてちょっと面食らってしまった。

 

ダリがめちゃくちゃ好きなんだけど正直「シュルレアリスム」というアートジャンルについては一切の知識を持っていなかったので読んだ。シュルレアリスム自体は文学起点の活動だった――というのはギリギリ知っていたけれど、その手法までは知らなかったのでかなり勉強になった。無意識に迫るため、とにかく書き続ける――という手法自体は切羽詰まっているときの即興小説に近いようにも思う。

 

他にも色々こういう本が読めたらいいな。おすすめあったら教えてください。

 

 

批評の教室

そもそも批評とは何か? の説明から始まり、テキストへの向き合い方、実践寄りの批評文の書き方まで教えてくれるまさに入門書。「読む」ってどういうことだろう、と考えたりしました。今年は読み手としての自分を大切にしたいと思っています。

 

関連図書もかなり面白そうで、いろんな本が読みたくなった。

物語の構成とかについてもっと理解を深められる本を何冊か読みたい。

 

 

誰にもわかるハイデガー

タイトルからしてめちゃくちゃ怪しそうな本ですが、作者は筒井康隆で、まあなんかちゃらんぽらんな本ではありました。ハイデガーの入門書を読んだあとに、ファンブックとしての本書を読むべきだったかもしれない。語り口は軽く読みやすいのでとりあえずの一冊としてはおすすめ。解説がめちゃくちゃ長い。

 

好きだった一文の引用 //「神のようなものだけがわれわれを救うことができる」と。だが、神はわれわれを救うことはできない。ただ、神はわれわれと同じことに苦しんでいる。

 

どうしても頑張れない人たち

「ケーキの切れない非行少年たち」2。1もそんなに面白くなかったのに店頭のポップに負けて購入してしまった。

最低限の安心感を持たない子どもに対しては、アドバイスとか指導とかではなくとにかく味方でいることが大事――という話、正直そうと分かっていながらも出来ないことも多そうだという感じがする。「そもそも約束を破るような人・努力できない人だから支援が必要なのだ」という言葉の現実感。

新書らしく、めちゃくちゃわかりやすい本ではあります。

 

ダンゴムシに心はあるのか

前書きで著者本人も言い訳している通り、第一章における「心の定義」の話は退屈極まりない。この議題をそぎ落として単にダンゴムシの研究紹介に終始しても十分読み応えの確保できる本になったのではないか、という気もする。

 

動物、少なくとも哺乳類が、嬉しかったり悲しかったり落ち込んだり反省したりする感情を持っているのは自明なことで、個人的にはあのナマコだって悲しんだりしているんだからそりゃダンゴムシも落ち込んだり反省したりするだろうなあ、と思った。哺乳類以外の動物の研究をすこしでもしたことがある人なら、この「心」の定義の上での「心はあるのか」の問いには、あたりまえに「あるよそりゃあ」と答える気がする。

 

著者にとって「心」とは、意思を表現するためになにか別の欲求を抑制できること。

ダンゴムシは障害物に合うたびに左右ジグザグに進む性質を持つが、その結果あまりに長いこと危険な状況に留め置かれるとその性質を破るものもいる。性質をそもそも持たないもの、性質を固辞するもの、途中で学習して変更するものがいるが、学習が働いていることは明らかである――というような話だった。

 

 

2週間で小説を書く!

読むのにそもそも2週間以上かけたんじゃないかな。そして小説は書いていない。せめて書いてくれ。

正直相性がよくなくそんなにためになる本ではなかったが、才能とは継続力、という言葉にだけは強く同意したい。

 

 

「子どもを愛する力」をつける心のレッスン

とにかく「60%」以上の愛情が3歳までに注がれるかが人生のすべての鍵――という感じで書かれている一冊。嘘つけ。

60%って、時間ベースなのか量ベースなのかどういった基準によるものなのかの説明などは一切なく、とにかく愛してあげないと将来愛せる子にならないし、取返しもほぼつかない――みたいな脅迫の本だった。

まあ、もし人間に「3歳までにこれをやっておかないと取り返しがつかない」ってことが本当にあるんだとしたらそりゃ仕方ないことではありますが、それにしてももうちょっと論理性のある説明がほしかった。

 

ところで本を全部読み終えたあとで、ふとWikipediaを見てみたら、著者の方、「愛情の取返し」を行うための「育て直し療法」と称して患者に性加害を行い有罪判決を受けているとのこと……。図書館で適当に本を選ぶと、こういう本にも出会いますね。

 

 

 

産めないけれど育てたい。 不妊からの特別養子縁組へ

「血のつながらない子供を愛することはできるのか?」

できるだろうなとは思うものの、実際にふんぎりつけるには相当な決断力と思案を要しただろうなあと推測できる。

 

養子側は成長したあと実親と再会することがあっても、「自分にとっての両親は育ててくれた両親だ」と思う人が多いのだそう。まあでも、実際的にはそうですよね、わたしも両親のことを「親」だと思うのは、育ててくれた二十年があるからだし。と思ったりなどした。

 

 

折られた花: 日本軍「慰安婦」とされたオランダ人女性たちの声

慰安婦問題は実は韓国との間だけに発生しているものではない――ということはぼんやり知ってはいたんだけれど、あんまりちゃんと調べたことがなかったので読んだ。

 

まあしんどい一冊だった。今よりも売春婦の身分がかなり低かったから、「強制売春だった」のか「そうではなかった」のか、の違いがかなり深刻な生活影響を及ぼしたそう。でもそこの認定争いを国家としなければならない――というしんどさ。韓国慰安婦問題を取り扱った本は数多いけど、オランダのほうはほぼ本がないんじゃないかな。貴重な一冊でした。

 

 

ナルちゃん憲法

この本、なぜか存在をずっとずっと前から知っていて、というのもわたしの人生の推しゴーストハントの「ナルちゃん」が一応タイトルについているから……。Amazonとかで検索すると出るんですよね。

 

本としては、美智子皇后による皇太子(ナルちゃん)育児メモを元に、皇室担当記者が書いた本。もちろん、非常に丁寧で愛情を感じられる子育てですねぇと言う感じ。

 

 

絵筆のいらない絵画教室

子どもに、「絵を描く」前にやるべきことを教える――というような本。

まあ、観察が大事だよね、みたいな話でした。

 

著者が、初めての人体解剖を終えて解剖室から出たときに、階段を昇っていく人の白い足を見て、「えっ、生きている!」と驚いてしまった、というエピソードがとても好き。まずは自分なりに感動できるようなインプットがないと描けませんよねってことを分かりやすく伝えてくれる一冊。

 

 

その子を、ください。

これも養子に関する本。

出すほう・貰うほうのそれぞれの「親」目線の話。産婦人科医師の記録書であることから、「子」側の視点の話はほぼない。

「この子を養子にむかえるために、わたしは子供ができない身体だったんだと思う」と言ったというお母さんのお話があったんだけれど、こう言えるようになるまでには様々な思案が必要だったろうと思う。

 

 

「なぜか娘に好かれる父親」の共通点

娘視点で読むと「そりゃあそんなことしたら嫌われるでしょうね」としか言いようのない本。価値観が違いすぎる。ある意味「娘に嫌われている父親の言い分」を窺い知れる本でもある。

 

「大丈夫!娘とは必ず和解できます」の章とか、ちょっとした宗教みまで感じた。娘と亀裂の走る父親を傷つけないように宥める本という印象。

 

 

モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!

モンテッソーリってなに?知らん。そういう状態から始めるのにちょうどいい本です。

学習的な本と言うよりは、モンテッソーリ教育を行うにあたっての最初のこころがまえを教えてくれるような本。最初の一冊目にとてもいい気がする。細かいことは他の本に任せてる感じです。ゆるさと読みやすさがとてもいい。

で、モンテッソーリというのは「就学前の子どもがどの時期にどんなことに興味があるか」を理解して見守りましょうという考えがベースにあるもの。元々、かなり意識高い感じの教育方針なのかなあと思っていたんだけど、どっちかっていうと受け入れて怒らず楽しませ、という方向の教育だった。

 

 

日本人のためのアフリカ入門

以前から、アフリカ=経済支援が必要な貧しい国、と解像度の低い理解しかできていない自覚があったので読んでみた。アフリカと一言にいってもさまざまな国があり、比較的安定している国から選挙不正で揺れている国までさまざま。

戦後の一定時期、アフリカが世界においては相対的に豊かだったこと(アフリカより貧しい国は他にいくらでもあったこと)や、冷戦終了後に石炭石油等の資源輸出国としての価値が薄まり経済支援の縮小が行われそうだった状況にストップをかけたのが日本であったことなどは、まったく知らなかったし意外でもあった。

 

 

よるのばけもの

実は、初・住野よる作品。

そんなにエンタメしてないのが個人的には意外だった(大人気作家という認識だったので)。ひょっとしたら今作がちょっと珍しいほうなのかも。

文章は読みやすく、青春系作家という感じがする。でも例えば中学生なら誰にでも読めるかんじじゃなくて、そこそこ本を読む子じゃないと読めないかもという感じはした。他の代表作も色々読んでみようかな。旅行の行きの電車で読み終えました。

 

さよならの言い方なんて知らない。6

ラノベ小説です。出たらリアルタイム購入する小説なんて、十二国記とこれしかないかもしれない。もう6巻まで来てしまいました。

デスゲームものではあるんですが、心の底から優しい話なんです。今回も、プレイヤーたちが「アレ」だと明かしたうえで、言葉によって心を動かすトーマの作戦の強みをラストに持ってくるこの構成の強さ。ドラマがすごい。めちゃくちゃオススメです。(6まで読まなくても、最初の1巻だけでも面白いと思う)

 

オークブリッジ邸の笑わない貴婦人

ラノベ

異世界転生」あるいは「タイムスリップ」でメイドになって……という小説はいくらでもあるわけだけど、この本は「現代を舞台に、メイドとしての立場で、いかにして19世紀を再演するか」がテーマ。

苦労が多く描かれ、なんとか主人に認められるまでの物語。後半のドラマはちょっとドラマティックすぎるかなあと思ったけれど、読みやすい文章と魅力的なキャラクターを楽しめた。21世紀に生きているはずなのに、19世紀が少しずつ「現代」「私たちの時代」になっていく使用人たち。執事のユーリさんとのカップリングもさりげなくてとてもよい。

 

メルロ=ポンティ入門

 

哲学書を読んでみようシリーズ。

 

ぜんぜん意味わからんかったが、とりあえず一旦読み終えてみましょうか、という感じで読んだ。内容は1/3も理解できていないと思う。

 

著者自身の、火事の話が本当に印象に残った。隣の部屋がある夜火事になったので、ちらっとベランダから部屋を覗き火の海になっているのを確認してから通報したのだそうですが、実はその覗いた部屋の中には(その時は気が付かなかったけれど)お隣さんの母娘がいたということを後で知った、という話。結局心中だったそうなんだけれど、著者は決して正義感の強い人間ではないのに、あの夜、その小さな小さな娘さんを抱えてヒーローよろしくベランダを飛び出す夢を、何度も何度も見たということです。

 

こう書いても著者本人は喜ばないだろうけど、正直この方の書いた研究エッセイ本とか読みたくなった。メルロ=ポンティについてはまた巡り巡って理解できたら嬉しいなという感じです。(なにも入門できていない)

 

 

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10月以後は体調崩してたのでほぼ本読めませんでした。

今年はまたちょこちょこ読んでいきたいな。

 

 

 

では最後に、2022年時点の十冊です。

 

2022年時点での10冊

 

魔性の子

・人間の絆

屍鬼

・私たちが孤児だったころ

・パズルランドのアリス

ゴーストハントシリーズ

・月と六ペンス

・エズミに捧ぐ

高慢と偏見

・クララとお日さま

 

 

 

今年も良い本に出会えますように。