あけましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。(※もう3月)
恒例のこの記事の時間がやってまいりました。
なお、2023年に読んだ本の話はこちら。
meeparticle.hatenablog.com

『水族館の通になる』中村元
体系的な知識を授けてくれる本というよりは、水族館好きの一般人が知りたがる雑学を飼育員さんがちょこっと教えてくれるような感じの本。
水槽の裏側の苦労や、意外にも日本人が水族館好きであること、水族館で他の国の人はあまり口にしないあのセリフ「あの魚、おいしそうだね!」のこと。ありとあらゆる分野の「気になる話」が盛り込まれているけれど、ほんのすこしだけ動物の仕入れ方法の話が多めかも?
「深海は近くて遠い現代の異界だ」という文章がとても美しかった。あと、「死滅回遊」ってほんとにそんな言葉があるんですね(某漫画の造語だと思ってた)。
西の魔女が死んだ
死に関する、これ以上なく優しく楽観的な解釈を示した物語。死ぬことに対する肯定的な諦めと受容。正しく活きると信じ続けるための意思の力。美しい話でした。
世界で一番透きとおった物語
帯の「電子書籍化不可」、とても気になりますよね。いやー、とにかくよく書いたなこれ、の一言。エモ文芸的な文章がめちゃくちゃよかったです。
女生徒(太宰治)
太宰治の「女生徒」と、佐内という方の写真が交互にページに現れる本。宮本浩次が帯文を書いていたので買った。
読んでいる途中で、「あっ、もしかしてこの少女、美しいのか?」と気づかされるこの感じ。騒がしい女の子の頭の中を覗かせて貰っているような感じ。「美しさに、内容なんてあってたまりものか。」のパワー。太宰は、意外と女性を美化しすぎない書き手だよな、と思ったりもする。
ハンチバック
から始まる小説。ああなるほど、そういう"現代性"の出し方ね、なんてこちらも斜に構えながら向き合っていたら、全く異なる視点を見せつけられる。一読の価値はあるし、二種類の弱者が傷つけ合いながら一時的なつながりを持つ構図はもちろん文芸的ではあるが、ただ、どうしてもいまいち乗り切れないというか。こういうことを言いたくなる作品もあるんだなって自分が不思議でもあるんだけど、「もうちょっと丁寧に書いてくれたら」と言いたくなった。割と粗削りなのも好きなほうなんだけど、なんだろうな、面白くはありました。
ところで田中さんの「お大事に」は、お前ほんとに頭がおかしいねって言われてたのかな。あそこだけよく意味が解りませんでした。ラストの、「いつか/いますぐ」は、どちらで終えようか悩んでいるという描写(=つまり、こちらのほうが作中作)と認識したんだけど、どっちなんだろう。まあ、ラストの方は分からせる気がない感じだった気がしますが。
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少しだけ日を置いたことでこの小説に対する評価が変わったところがあるのでメモ。当事者小説とも呼ばれる「ハンチバック」、この作品自体には、確実に一読の価値がある。で、この「当事者小説」とかいうパージで何かを隔離したような気持ちになれるラベリングを評価する場所があるとしたら、やっぱり文芸賞としての「芥川賞」が相応しいのかな、という気になった。他の芥川賞作とはやっぱ違うな、とは思うんですけどね、でもこれが「読まれるべき文芸作品」であることには一切の異論はないので。
「生き物が老いるということ」稲垣栄洋
ーー生命にとって、死ぬことは当たり前のことではない。生命は「死」を獲得した存在なのである。
ラクレらしい読みやすさで、死と老いについて書かれた本。どちらかというと「死」のメカニズムについての話が多めで、老いはおまけ程度。単細胞生物(ゾウリムシ)、植物、動物、などなど様々な生き物の死生に関する話がてんこもり。ゾウリムシは実は死なないが、しかし他の個体に合うとお互いに遺伝子を交換する――つまり、その時点で従来の組み合わせの個体は「死んだ」ともいえるのでは?という提言。
「生き物はなぜ死ぬのか」「なぜなら、死ぬほうが有利だったから」というのが現場証拠から導き出される結論らしい。
新世代が生まれても旧世代が生き続けることもできたはできたろうが、なぜかその戦略を選ばなかった。あるいは、選んだ種は皆絶滅した。(前述の通り、死なない生き物もまだいるわけだが)
身体の小さな生き物(捕食の危険が高い)や死亡率の高い生き物は、寿命が短い→早めに子を作る必要があるため。逆に、身体の大きさに関わらず何かしらの理由で死亡率の低い種(コウモリとか)は、小さい割には長命であるとか。人間も、このサイズにしてはかなり長命(サイズ的にはゾウに匹敵)だそう。
最後の方は、よくあるテロメアの話やがん細胞の話でフィニッシュ。70年ほど前にすでに亡くなっている女性のがん細胞が世界中で培養されて今も生き続けている話はしらなかった(HeLa細胞と呼ばれているとか)。「老いとは」より「死とは」に思い馳せたくなる本でした。
ラストでは、遺伝子を残す必要も適者生存を体現する必要も無くなった老人は、生き物の中でも一番自由に生きられる、とのメッセージあり。そうかな?とは思いつつ、人間の作る社会に、「適者生存」の逆をいく多様性保存の精神が宿り続けるといいなと思う。
「頭が良くなる文化人類学」斗鬼正一
作られた花壇は自然か?近親婚はタブーか?なぜ犬は食べてはならないのに鯨は食べるのか?葬礼、美の基準、男女の役割、色の数、子どもの誕生、虫の鳴き声など、すこし文化人類学をかじった人なら「そんなのあったなあ」となる話がてんこ盛り。
スナック感覚に蘊蓄が手に入る一冊。しかし文化人類学の入門本というわけではなく、文化人類学において忌避されることの多い「好奇心をくすぐる途上国の文化紹介」的な書き方の部分も多い。とはいえこういう本が好きな人はとても多いと思うし、ここから参考文献を辿ることで効率的な旅もできそう。
手軽に文化人類学っぽい蘊蓄を集めたい人にはかなり効果的な本ーーと書くと何だか嫌味っぽい感想に見えてしまいますが、書名の「頭が良くなる」からして、文化人類学に真剣に入門させようという本では無いことは明らかなので狙い通りなのだと思います。普通に面白かったです。
(余談。「普通に面白い」という感想は、「取り扱われている分野の愛好者でなくとも、一般人でも楽しめる面白さがありますよ」という意味である、というツイートを先日見た気がしますが、まさにその感想の似合う本でした。文化人類学のぶの字も知らない人に薦めても楽しんでもらえそうな本。)
「池上彰の世界情勢2024」池上彰 #読了
もしかして池上彰の本ってわかりやすいんじゃないか!?と気づいたので最新刊を読んでみた。本著は小学生向けのコラムをまとめたものらしく、たしかに賢い小学生高学年ならぜんぜん読めそうな感じ。(親切にも、イスラム教とは何かとか、円安とは何かとかから説明がある)
内容としてはただ世界情勢が書いてあるだけなので、こども新聞を読む感覚に近い。とはいえこれほど分かりやすくありとあらゆる情報を俯瞰して摂取できるのはかなりありがたいもの。アメリカ・韓国・台湾の選挙の話や、ガザやウクライナの話、ドル高円安などなど。
「読書を仕事につなげる技術」山口 周
――本棚は「外部化された脳」である。
著者にとっては「使える脳」である本棚を維持し続けることが何より重要なことなので、いらない本は棄てるし、間引くし、整理する。
本棚を眺めることは本の著者と背表紙を通じて会話をすることだが、「何年も開いていない本とは会話出来ない」とのことで、捨てる対象になるのだとか。このあたりについては異論ある読書家も多そうだな、と感じた。
とはいえ――どれほど愛している本でも、十年読んでいないとなんとなく距離が開いてしまって、細部を忘れてしまったりすることも当然あるわけで……「繰り返し読む大切な本ばかりの本棚」を持っている人はたしかに仕事ができそうだと思うので、唾棄すべき意見とも言えない。
本を切り裂き自らの血肉とするため何をすればよいのか、を解説した本でした。ビジネス書マンダラ(ビジネス書って結局どれ読んだらいいの?の疑問に著者がズバッと答えた読書ロードマップ)も付いてるし、「ビジネス古典書を色々読んでみよっかな」な人には、ブックガイドとして超お薦めの一冊です。
「最悪の医療の歴史」ネイサン・ベロフスキー著
これ以上なく過去の「医療」を馬鹿にしている本なのだが、まぁ、でもたしかに馬鹿にしたくもなるかな、という気持ちになってくるエピソードばかりが掲載されている。
オカルトと錬金術と医学と占星術がたいして境界を持っていなかった古代から、すこしずつ時代を下っていきつつ、トンデモ医療が解説される。もちろんどれも、当時としては主流だった医療たち。四体液説ってこのなかではかなりオカルト度低いよな、とも思ったり。武器軟膏、特徴説、喀血などなども。
そして時代が下ってきても、意外と医療は宗教的な価値観から逃れられていないのが恐ろしい。痛みは回復のために必要なものであると考えられていたり、解剖がなかなか行えていなかったり。あるいは、いちはやく正しい説に辿り着いたにも関わらず、狂人扱いされた者(消毒法の父)や、世界を救うペニシリンを見つけても十年もの間実用化への道を進めなかったフレミングなど、正解を引き当てたパターンにおいてもなにやら残念なエピソードてんこもり。
最後に紹介されるのは、カバー袖エピソードにも登場しているフリーマン。アイスピックによるロボトミーで精神患者を治したと信じていた彼は、批判を受けた時に患者やその家族から受け取った大量のクリスマスカードを撒き散らして反論したとのこと。今から見ると誤っている医療は、当時の医師からみれば王道であり人を救う技術であった(たとえ、逆効果でその人を殺す医療だったとしても)。昔の医者に怠惰や無責任さを感じることがないとは言えないものの、一応のところ救おうとして行われたことで無数の人が死んだ真実は結構心に痛いものがあった。
ところで、この本の作者、ネイサン・ベロフスキーは医療者ではなく、ほかの著書には「最悪の法律の歴史」などもあるみたい(というか、専門は法律のほう?)
本書も、体系的なものではなく最悪エピソードを列挙して紹介する構成。面白かったです。
『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』周司あきら
トランス男性の視点で見た「男性学」を整理してくれる本で、トランスジェンダーのことも女性学のことも知らないわたしが最初に読む本として適切だったのかどうか疑問符が残るが、幸いにもめちゃくちゃ注釈の優しい本だったのでギリギリWikipedia片手になんとかなりました。
トランス男性は人により性別移行に伴いレズビアン→ゲイとなったように見られることもあるそうで(そんなことすら知らなかったが…)、その背景や思考は、これは読まないと想像もできなかったことだった。
正直なところ自分にとってそんなに重要なことではないので今までわざわざ明言してこなかったが、「その性別らしさ」が精神面に宿るという主張(※この本の主張ではない)には実はなんとなく実感が湧かない。身体的な性別違和については分からなくはないんだけど、それも「もし明日自分の肉体の性別が変わっていたら」どれほど違和感があるか、という仮定を取る場合、正直そんなにないと思っている(無論そのようなことはわたしには起きていないので意味のない条件設定ではあるが)。
ただ、男性として育てられること、女性とみなされて対応を受けること、という社会的な対応の違いについてはその人自身の精神に及ぼすところは無視できないものがあると感じていて、「トランス男性は女性として育ったというより、男性として育てられてこなかった男性である」という言葉には確かにそりゃあそうだよなと思った。こういうことすら、丁寧な言葉で書いてもらわないとわからない。言葉はもちろん無力ではないが、それでも丁寧さや根気強さが発信者と受け手そのどちらにも必要なツールだよな…と思ったりもした。
『絵本とおもちゃでゆっくり子育て』柿田友広
こういう育児書って、一冊ごとに思想が込められている。いろんな思想の中から、これは自分の考え方に合うかも、と思えるものをコレクションして自分の子育てに反映していけるのがいいんだろうなぁ、と思う。(知らんけど多分、創作論の本とかも同じだろう)
素敵な本やおもちゃがたくさん紹介されているので、自分の子どもの年齢に該当するページをパラパラ見るだけでも楽しそう!著者は本とおもちゃのお店の店主さんのようで、ぜひそのお店にもいきたくなった。
ドイツの幼稚園では「主体的な遊び」が重視されている、という話が出てくる。もちろん日本の幼稚園や保育園でもその園によって考え方はさまざまだろうけれど、たしかに「その子なりの遊び」を重視してくれる環境っていいよなぁと思ったりもする。
ドイツではないけれど、海外にいたころ弟が通っていた幼稚園でも、おもちゃが遊具のようにたくさん溢れていて圧倒された覚えがある。(トイストーリーのサニーサイド保育園がかなり近い)
たくさんのおもちゃの写真に心躍って、なんだか童心に帰れるような本でした。
『なんにもない部屋で赤ちゃんを育ててみれば』ゆるりまい
ほんとに何も持たないミニマリストが、赤ちゃんを迎えたあとで少しずつモノを増やしていき、そして、減らしていき……という、意識の遷移を辿るお話。「ミニマリスト」というすこし特殊なライフスタイルが出発点だからこのタイトルになっているが、どんな母親にとっても子どもが生まれた以上スタイルや生活リズムの変更を余儀なくされることはあるわけで、でもこの著者の場合そのギャップが明らかに大きく、ひとつのエッセイとしてとても面白い。
「家事ハラ」(家事を手伝ってもらった際に出来ていない部分をあげつらってハラスメントすること)という言葉を初めて知る。家事に限らず、「出来る側」が、慣れない人間の「不足」ばかりをあげつらい、結果「出来る側」へ負担が集中したりする……ことは、よくあるよなあ、とも思う。
「出産前と変わらず、家事を完璧にやりたいと思ってしまう」ということ……ただ、わたしは同じことを「仕事」でやろうとするんじゃないかなという気がしていて、「自分がやる方が早い・そして質が良い」と思ってしまってメンバーに仕事を振れないリーダーの話(よく聞く)とも被るところがある。仕事も家事も、ほんとうにそのラインが必要なの?もっと手抜きできるんじゃないの?っていうのは、常に再考が必要なんだよな、多分…………。
常に120点を取りたいと思って仕事するのって、負荷は高いけど気持ちいい。でもお客さんや上司は「100点でいいよ、っていうか合格点は80点だから、それぐらいでいいよ」って思ってるかもしれないよね、みたいな話を社内の女性キャリア研修で聞いたことがあって、それに近い話でもある。
自分よりも「できない」人に何かを任せること、その現状を受け入れて自分をゆるすこと。そして代わりに大事ななにか(この本においてはもちろん、赤ん坊)を抱きしめること。優先順位を間違えないように仕事復帰したいな、と気持ちが新たになった一冊でした。
『他者と働く』宇田川元一
なにかが【できない】時、それは技術的にできないのか、それともそれ以外の要因でできないのか?
また同じく、【どうすればできますか?】と言う時、どうすればの裏に隠れている言葉は何か?
……というようなところから話が始まる組織論。
「どうすればできますか?」と聞く時、その質問の背景には「どうすれば(失敗せずに)できますか?」という言葉が隠れている。失敗せず簡単に解決できる課題などない。というよりも、そういう簡単な課題は大体もう解決されきった後であるーーという話、何ともその通り。。
経営一本の創業者ではなく、学者が書いた本というところがこのタイプの本としては少し珍しい。
とはいえ学術的というわけではなく、かなり実践に寄り添った内容。言われてみたらまぁそうだよなあ、という内容を積み重ねて結論へ辿り着く感じ。
組織が変わってくれないとか、イノベーションを受け入れてくれないとか、そういう課題は全て局所的合理性をもって発生している。大抵の場合、頭の固い他部署の人は、その人なりの合理的理屈があって変化を受けいれない。
相手の理屈や文脈やナラティブを切り開き、なんとか会話を始めましょうという一冊でした。読みやすかったし面白かった。
バカの壁
これ本当に大ベストセラーの本なの? と疑いそうになるぐらい薄っぺらい本……だと思ったら、本人の「喋り」を編集者がまとめた本らしい。もしこれを偉い人が飲み屋で喋っていたら、この人意外と面白いこというなあ、と楽しく聞くことができそうだけど、新書とはいえ本の形で読むのはかなりきつい。まだオーディブルとかで聞き流ししたほうがよさそう。
フランス人は10着しか服を持たない
2024年読み初め。2023年のクリスマスバザー(マンションで開催されている)に出品されていたので、そろそろこの本も読んでみるかと手に取った。一番驚いたのは、著者がアメリカ人の翻訳本だったこと。フランス人のおしゃれさに幻想をいただいているのは、なにも日本人だけではなかったのか!(たしかに、アメリカ人には享楽的な物質主義のイメージがあるかも)物質主義への警鐘というか、たくさんものがなくても、よいものを少し持つだけで生活は豊かになる――という本。
なお、2024年のクリスマスバザーに出品した。
2024年時点での10冊
・図南の翼
・わたしたちが孤児だったころ
・ひらいて
・人間の絆
・高慢と偏見
・ナインストーリーズ(エズミに捧ぐ)
・デスノート ロサンゼルスBB連続殺人事件
・死に至る病
・アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
・屍鬼
2025年は、「十冊」に入る本と出会えますように。