@particle30

惑星イオはどこにある

2023年に読んだ本の話

 

あけましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

 

子どもが生まれたので、育児書や絵本をよく読んでた一年でした。といってもそれらの本を書くとキリがないので、ここではあまり取り上げないことにします。というわけで例年よりは冊数が少なめに見えるかも。

 

 

なお、2022年に読んだ本の話はこちら

meeparticle.hatenablog.com

 

 

 

 

本の感想

まずは小説部門。

 

小説

エンドロール(塩谷験)

 

ミステリ小説。

「探偵と思想の戦い」でもあるし「裏切者を探せ」的な要素もある。

「なんのために書くのか」の話でもあるし、「文章に何が出来るのか」の話でもある。

いやー面白かった。なんか何か言うとネタバレになりそうなので、↑こういう曖昧なポエム感想だけで終わりにしようと思います。メフィスト賞受賞作家だそうです。トリックやアリバイ等を考える必要のない、でも良質な心理ミステリでした。

 

今度生まれたら

評判がよかったのでとりあえず購入して電子書籍で読む――という読み方をしたので、最初、小説なのかエッセイなのか分からなかった。それぐらい、まるでエッセイのような書き口をとっている【小説】です。

プライドのとにかく高い70代女性の生活の話。「おばあさん」の煩さというか、面倒臭さの詰まった一冊。

 

すずめの戸締まり

 

映画鑑賞後に読みました。

 

「天気の子」の時にも思ったけど、この、映画を追体験するかのような読書体験は本当にこの本ならではのもの。小説版にしか書かれていない情報も多少ある。単体の小説としては(映画では3人称的なところをむりくりまとめている点もあり)読みづらいとは思うが、でもまあみんな映画→小説の流れで読むだろうと思うんで全然問題ないと思います。いい映画でした。

 

せっかくだから映画「すずめの戸締まり」の話もしようかな。わたしは同監督の「天気の子」がかなり好きで、2Dアニメーション映画のなかで一番好きな映画は何かと聞かれたら躊躇いなく「天気の子」をあげると思います。(ちなみに3Dならズートピア、実写ならタイタニックインセプション

 

「すずめの戸締まり」は、少女が自分をもう一度抱きしめるために日本縦断するロードムービーで、随所にみられる「人間という存在への底なしの肯定感」や「ある種無責任にもとられかねない楽観性」による人間賛歌の音色がとても純粋で、そこが好きでした。しかもメインヒーローが長髪の男という…………(長髪の男がとても好き)。

 

震災と津波の描写があるので、人を選ぶ部分はあると思いますが、おすすめの映画ではあります。万人に向けた傑作というものではないと思うし、尖り方で言えばわたしは「天気の子」のほうがぜんぜん好きだけど、でも「すずめの戸締まり」もよかった。

 

異類婚姻譚

こちらで感想記事を書きました。

 

 

 

新書・雑学書・エッセイなど非フィクションもの

 

マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる「しくみ」教えてください

 

一冊だけ育児書を入れさせてください。これは、なんというか、全然「子育て」の枠に収まりきらない本。

 

自分の夜の自由時間とやるべきことを計算しておくとか、小さな報酬を用意して物事を進めるとか、たまにはノーゲームデーを作って新鮮な1日を過ごすとか、大人にも効果覿面なTipsばかり。行動認知療法に興味が出た。

なんかダラダラしちゃってぜんぜんやりたいことできないな……とか、締切直前になるまでなんにもできないな……みたいな悩みを持つ人は、子どもがいるいないとかに関わらず「自分のため」に読んでみてもいい本なんじゃないかなあ、とすら思います。

読めばすぐに何かが解決できる魔法が書いてあるというよりは、「あー、それちょっとやってみるのいいかもな、試してみようかな」みたいな気持ちになれるプチTipsが簡単に漫画でライトに紹介されてる本、って感じ。新しいことを始めるモチベーションの豊富な、年明けの今読むのがふさわしい本でもあると思います。

 

ことばの発達の謎を解く

面白かった。乳児・幼児がいかにしてことばを獲得していくのか?という話。(←この一文だけでへ~面白そう~って思った人にはすごくオススメです)

子どもは、言葉のシャワーの中から、「文法」をなんとか抽出して、単語ひとつひとつがどういう意味合いをもつのか、分類して学んでいるらしい。すごすぎる。

言葉を学ぶということは、「知っている概念をラベリングしていくこと」ではなくて、「言語をもとに、知覚した世界を切り分けていくこと」という話が面白かった。言語って、ただのラベルではなくて、認知や思考そのものなんだよな、という。言語があるからこそ、ラベルを貼る先の対象ができるというか。

あと、言語学習中の子どもは「推論力」と「修正力」が並外れている、という話も面白かった。たしかに、「これはペンギン」と教えられた時、その言葉の対象が動物なのか鳥なのかペンギンなのか固有名なのかを判断するのはめちゃくちゃ難しそうな、とか。自分の推論が間違っていると気づいたら、すぐ修正できる柔軟性とか。

この本を読んだ後で、Youtubeの「ゆる言語学ラジオ」を見るようになったんだけど、結構内容が被っており良い復習になった。同じ本で学んだ誰かと、その本の内容についてあれやこれやと喋る――みたいなのがわたしは結構好きなんだけれど、それを疑似体験できる感じ。

 

ヒトラーとナチ・ドイツ

そういえばどうしてヒトラーって台頭できたの? という、一度ならず何度も浮かぶこの疑問を、主に「政治制度」の面から答えた本。何が起きて、どうなって、ヒトラーを支持したほうが有利となる状況がドイツの中で出来上がっていったのか、という遷移が書いてある。ドイツの当時の政治制度のひずみや、国民感情、そしていくつかの偶然など、さまざまなタイミングが奇妙にかみ合ってしまった結果、悲劇が起きたということは理解できた。ところで彼は割と「自分で作り上げた思想」はない人だったようなので、そこだけ少し意外だった。

ただ、一つやっぱり不思議なのは、ヒトラーの反ユダヤ感情そのもの自体は、いったいどこで生まれたのか?ということ。この本を読む前は、彼は反ユダヤ感情を利用して何かを起こそうとしていた(例えば反ユダヤ感情を利用してドイツ人の鬱憤を発散させていたとか)だけで、別に個人としてユダヤ人が嫌いだとか、それだけであそこまで行ってしまったわけじゃないだろう――と思っていたんだけど。どうやらただ単に彼自身が「ユダヤ人を憎んでいた」としかいえないような非合理な選択場面もあるようで、なぜそこまでいってしまったのかが不思議。この本はこの本でめちゃくちゃ面白かったけど、もう少しヒトラー個人の心理面にフォーカスを当てた本も読んでみたい。

 

出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来

一冊だけ重たい本の紹介も。

この本は出生前診断に関する「医療側」からの意見を書いた本。当事者となるべき「親の側」の意見は伝聞という形式でしか記されていない。この本を読んだ後、わたしは、出生前診断を受けないことに決めた。

 

出生前診断を受けて陰性だった人が「出生前診断を受けて良かった」と思うのはよく分かるし、出生前診断を受けずにダウン症その他の子どもを産んだ人が「出生前診断を受ければよかった」と思うのもよく分かる。正直、そういう状況にある人達がそう思うのは至極当然のことだとすら思う。けれども、そのどちらにも該当しない、「出生前診断を受けて陽性だった人」は、果たして「出生前診断を受けてよかった」と思うのかどうか、とか、そういう視点の本だった。

 

 

本の感想としてここに書くようなことなのかどうか分からないけれど、その時思っていたことをここに残しておきます。(長いのでクリックで展開)

 

 

※この先、ダウン症について深く調べても考えてもいなかった時のわたしの意見をメモしてある部分があります。ダウン症について真正面から考えたことのある人にとってはとても浅慮な部分があると思うし、今自分でも読み返してもすごく知識のない考えが混じっているなと思います。でも「出生前診断を受けるかどうか」ということを考える妊婦の思考フローとしては、このような流れを辿ったのは事実なので、やはり残しておこうと思います。

 

自分に置き換えて考えると、たとえばもし目が見えなかったとして、生んで欲しくないなんて思うだろうか。いや思わない。耳が聞こえなかったとして、ダウン症だったとして……と考えてみた。正直、「自分がダウン症だったとして」という条件で想像するのは非常に難しかった。わたしがダウン症の人をさほど知らないというのもあるし、そもそもダウン症の人に現れる症状には個人差も大きい。ダウン症の人は合併症も起きやすいそうで、小さいころから病院に通う回数も多いと聞くし、医療の進歩で寿命がかなり延びたとはいえ、依然として低年齢で亡くなるリスクもある。

でも30歳まで生きられないとして、たとえばだけど30歳で死んでしまうとして、ちょうどその時30歳だった私は、もし胎児の頃、わたしを宿した人が「30歳まで生きられないなんてかわいそうに」と言って中絶を検討しているのを想像してみた。直感的に、いや、それは自分で決めさせてくれよ、と思った。30歳までしか生きられないからといって、20歳までしか生きられないからといって、10歳までしか生きられないからといって、それは、それでいいかどうかは正直生まれてみないと分からないと思った。

いろんな条件を考えてみた。目が見えなかったら、耳が聞こえなかったら、ダウン症だったら、生まれながらにどこかがとても痛くてそれが治る見込みがなかったら、とか、とか、色々。結局自分にいろいろ置き換えて考えてみてわかったのは、「幸せになれないのであれば」生んで欲しくない、という意見だった。でも、生まれるのは勿論自分自身ではないのだから、「自分に置き換えて考える」ことに、正しさがどこまであるのかはまだ正直よく分からない。

では、ダウン症の人が幸せであるかどうかをまず知りたいと思って、ダウン症の支援団体の方が出していたアンケート結果にたどり着いた。ダウン症とそうでない人との間に、幸福度の差はなかった。ダウン症の親についても、支援と繋がっている人の場合であれば幸福度に差はなかった。

ところで本の中では、「ダウン症でもアーティストになって成功している人はいますよ」的な言葉に励まされる親はあまりいないという話が出てくる。親は、子どもが天才でいてほしいわけでも世界的アーティストになってほしいわけでもなく、ただ幸せに暮らしてほしいだけだ、という話。それもそうだよなあ、と思う。障害のある子どもを持つ親は「子どもが天才ではなかった」ことを悲しんでいるんじゃないもんな、と。

 

(ところで、出生前診断の話をするときになぜ数ある障害のなかでもダウン症にフォーカスがあたるかというと、「出生前診断」で判定できるものはとても少なくて、その少ないうちの一つがダウン症だからです。これも本を読むまではあまり分かっていなかった。もし、他の障害も診断できるような状況になったら、発達障害や性格や美醜も含めた身体的特徴も分かるようになったら、もっと色んな視点から物を考える必要が出てくると思います)

 

また、海外における「出生前診断」がどう考えられているか、という視点の話も多い。

もちろん出生前診断の実施率が高い国低い国いろいろあるが、実施率が高い国でも、その文化的背景は様々。アメリカは移民国なので人種によっては4人に1人が重篤な遺伝病の因子を持っていることもあり、「産まない」判断をするためではなく「産む」判断をするために出生前診断を受けることもあるという(診断がなかった頃は、夫婦共に因子があると判明したら妊娠自体を諦めていた)。その他、診断が陰性とわかるまでは「妊娠した」という感覚が薄い国(=出生前診断が終了し、問題がないと分かった時点で「妊娠」を喜ぶ、という感覚)もあったり。

 

 

ただ、こんなに、こんなに考えたのに、生まれた子どもを育てていると、一人目と二人目とでは「出生前診断」に対する考え方も変わりそうだな、と思う。一人目の時は出生前診断を受けることなんて考えてもいなかったけれど、二人目の時には受ける、という人もいるだろうな、と。わたしとしてはやっぱり、出生前診断を「全員が受けるべき」という形式にするのはものすごく抵抗感がある。十代の頃は、もし子どもを産むことがあれば出生前診断を必ず受けるだろうとぼんやり思っていた人間だったにも関わらず、そう思う。

 

 

つぼやきのテリーヌ

森博嗣のエッセイ。

2ページずつ(見開き1ページ)の、100篇のエッセイが詰まった一冊。エッセイというよりは長い呟きに近いかもしれない。限られた紙面いっぱいに、明瞭にしかし具体的に、森博嗣個人の哲学が表されている。

 

「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店

「相手のカルテ(好きな本、大事にしていること、哲学などが書かれたカルテ)」を元に、1万円分本の選書をしてあげますよ、という本屋さんが大ヒットしているという話。たしかにこれはヒットするだろうなあ、と思う。セラピーとかカウンセリングみたいな効果もあると思うので。

この「一万円選書」という取り組み自体は、本を売るためなら誰でもパクリ大歓迎ということなので、わたしは本屋ではないが、誰か友だちと個人的なお遊びの一種としてやってみれたら楽しそうだなあ、と思っている。通話したことや会ったことある人のなかで、やりたい人いたら連絡ください。

 

 

オタクの楽しい創作論

「みんなの創作論」をテーマに書かれている本、ってなかなかないんじゃないか!?とすごくワクワクしながら読み始めたんですけど、一次創作じゃなくて二次創作の方の「創作論」でした。たしかに、頭に「オタクの」ってわざわざ書かれてるもんな……。

まあでも、面白かったです。これの一次創作版の本がほしいんだよなあ。同人誌でも全然いいので、みんなの悩みとかを読んでみたい。

 

 

自分の中に毒を持て(岡本太郎

岡本太郎が好きです。

 

本人の著作は読んだことがなかったんだけど、まあ読みづらい文章だった。なんというか、そうだな、読み応えがあるというか……。「噛み応えがあるね」っていう、簡単には飲みこませてくれない文章。

 

内容としては、タローの人生観/男女観/芸術論がざっくり描かれている。男女観編が一番面白かったかな。あまり論理的な本ではなくて、岡本太郎自身の爆発的な思想をとにかく書き殴った本、という感じ。

印象に残ったのは、「平然と人類がこの世から去るとしたら、それがぼくには栄光だと思える。」という一文。この栄光のパワーみたいなものを、あの踊る棒人間に込めていたんだろうな、と思った。彼の芸術は大好きです。

 

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その他、漫画は、「ブルーピリオド」「彼方のアストラ」「呪術廻戦」「医龍」「違国日記」あたりを読んだ。漫画は飽きたらすぐ読むのやめちゃうので、ここであげた漫画はどれも傑作だったことを約束できます。とくに医龍はほんとうによかったな……。

 

今年の記事、「出生前診断」の本だけめちゃくちゃ感想に気合が入りすぎてましたね。別記事にしてぶらさげるほうがいいかな、とか思ったりもしたんだけど、別記事にするならそれはそれでもう一回読み直してちゃんと感想書きたいなとか、色々思っていたら先延ばししちゃいそうだったので、とりあえずこれで出すことにしました。2024年はスピード重視でいこうね。

 

 

 

はてさて。いつもの十冊を決めます。

 

2023年時点での10冊

・こころ(最後の部分だけ再読しました)

高慢と偏見(今年再読しました)

・わたしを離さないで(今年再読しました)

・人間の絆(今年とばしよみで再読しました)

・ひらいて/綿矢りさ

・はじめての構造主義

・去年を待ちながら

・僕の知っていたサン=テグジュペリ

・少女不十分

・エズミに捧ぐ

 

 

 

 

2023年は、「十冊」に入るほどの本と出会えなかったのが少し残念です。

(とはいえ、異類婚姻譚はめちゃくちゃ面白かったですが)

 

 

あと、実は読みかけの本も多いです。すきま時間で本を読んでいると、なんか集中力があっちこっちに飛んじゃいがちなんだよな……。しっかり時間を取れる夜は執筆にあててしまっているし。読んだ量がほんと少なかったなあって反省したので、明日からまた頑張って読みます。

 

 

 

2024年も、良い本に出会えますように。