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惑星イオはどこにある

ウミガメアンソロ「ビストロ・ラテラル」感想文

 

「ビストロ・ラテラル」、読みました。

 

 

ご覧の通り、シックな赤がたいへん美しい一冊です。

 

ウミガメのスープ」の名前で親しまれる水平思考クイズの自作問題一問と、それをモチーフした小説一作が対になって掲載されているアンソロジーです。

わたしも一作寄稿しております。去年11月に出た本ですので少し時間が経ってしまいましたが、全作の感想文書けたらと思っております。

 

※全作、ネタバレを含みます。読後者様向けです。

 

 

 

 

 

 

 

はじめに

 企画者たけぞうさんによる、非常に上質な文章で書かれた丁寧な前置き。フレンチの皿を目の前に置かれたあと始まる手短な説明のように、この本一冊のために書かれた「水平思考クイズ」に関する背景説明の文章です。
 知的好奇心を刺激され、クイズの一つや二つなどいくらでも解けちゃいそうな気持ちになってきたところで、ウミガメのスープの説明が始まり、目次に切り替わり、本編のスタート。ウミガメのスープ説明文に添えられた雨季さんのイラストもたいへんおしゃれで素敵でした。

 そういえばこの本ほど「お品書き」という言葉が似合う本もないかもしれません。

 

 

「Yの嘘」

 タイトルより「Y」が嘘をついているということがある程度明白な状態で始まる一作。ではYとは誰か、嘘とは何か、ということを頭の隅っこに置きながら読み進めるよう設計された物語でした。

 探偵と助手が、怪しい殺人事件の起きた病院へ向かうーーという始まり方がまさに王道的で、事件解決とクイズのリンクもめちゃくちゃ面白かったです。

 そしてベースの文章力が高く、とても読みやすい。(「読みやすい」という表現、安易に使うと誤解が生じるなあと思うこともあるんですが、わたし自身は文章の「読みやすさ」ってめちゃくちゃ大事な要素だと思っています)

 救った探偵と救われた助手の関係性がめちゃくちゃよかったです。助手って探偵になんか弱みでも握られてるの?ってぐらい献身してるケースが多いと思うんですが、ある意味このペアにおいてはほんとうに(?)弱みを握られているという。。。

 

 

「仲睦まじい恋人たち」

 何か事件が始まりそうなワクワクする始まり方が好きです。あと主人公の名前が個人的に好きです。

 仲睦まじさが怖すぎる。「あなただれ?」って妻側が聞くところまでは夫が怖かったのですが、その後は妻のほうが怖くなってしまう展開になっており、ぞくっとする読後感でした。

 

 

「あなたに押して貰いたいの」

 一つ前の作品から雰囲気が繋がっている感じで、すこし古風なミステリホラー感がとても好きです。最初の2作とは違って、ある意味「ラスト」は分かり切っていて、ではなぜ主人公はそんなにも罪悪感を抱えることになっちゃったの? というホワイを掘り下げていくような感じ。

 

 

「ママ見て」

「まるで輪ゴムで縛ったような関節」っていいなあ。可愛い子どもの身体の描写ってことは分かるんですが、それにプラスしてちょっと表現的に怖い感じもあるというか、可愛い言葉だけで可愛さを表現していない感じが良いです。

 そして普通に怖すぎた。問題文もとてもお上手。

 

 

「私とみーの話」

 クイズに真っ向から挑むミステリなお話。このクイズは全然解けなかったのでちょっと悔しいです。人間の悪意や怠惰って恐ろしい。(さっきから怖かったところばかり話題にあげているな……)

 味覚があまり乏しくない、という設定は序盤から何度も繰り返されていたにも関わらず、作中で解説出てくるまで不審に思うこともなく読んでいてこれまた悔しかったです。

 

 

帰宅部は今日も帰らない」

 テンポがとても好き。榊先輩も好きだな~!って思ってたら怪異だった。好きなものが怪異である確率、とても高いです。「オリジナリティのある七不思議」ってたしかに怖いなあ、とも思いました。適当に流用してきたんじゃなくてほんとにあった事実が伝承されていそうですもんね。

 

 

「イノシシのステーキ」

 一つ前の作品から引き続き部活モノ。これもクイズ的にスプラッタホラーだと思ったら全然違っておりました。お恥ずかしい。

 こうやってクイズのリプレイを読むような感覚で読み進められる小説は、一緒にクイズに挑戦できて面白いですね。カニバリズム的要素があるものの、クイズの答えも小説自体も優しくて好きでした。

 

 

 

「世界でいちばん愛してる」

 わたしが寄稿した作品です。宜しくお願いいたします。

 

 

 

「キャット・ウオーク・ゴッコ」

 クイズ単体で是非挑戦したかったなあと思うほど、前提のあいまいさと不可解さが両立した非常に解き甲斐のありそうな問題。

 そして小説自体も、探偵ゲーム感があって面白かったです。

 

 

 

「不満な彼女」

 名前がカタカナだったので一瞬ファンタジーモノかと思って、意外にも仲間がいた!?と思っちゃいました。

 そしてクイズの答えが冒頭一瞬で分かる爆速解決具合も好きです。久しぶりに小説読んで笑っちゃったかもしれない。

 ラスト、どう着地するんだろう……? と思ったらダークな結末だった。

 

 

 

「コレクター」

 序文が好きです。「人間の心は迷宮だ。」

 早川さん、めちゃくちゃ探偵っぽい喋り方するのにワトスンなところが好きです。

 リフレインする構成も大変面白い。二回見たくなる映画というか、別視点カメラで見れるような感じがあるというか。――そして別視点で見ていただけだと思っていた鏡の先の人物が、違う人だった、という構造が本当におもしろいです。視覚的情報が与えられない、小説という媒体を賢く使っていらっしゃる。

 

 

「垂直落下する思考人形」

「解釈は人間の仕事だ。」が好きです。一般的に人工知能が饒舌だという設定もなんかよかったです。たしかに人工知能ってよく喋るよな……。

 ある意味ロボット専門の探偵である『条理士』という職業設定が良いなあと思いました。オリジナル士業が好きなので……。解釈を仕事にしているというところが好きです。また、このストーリー/設定だと、ハヤブサの出題するウミガメのクイズを解くことが条理士たちの仕事になっているわけで、この舞台設定自体がかなり面白いなと思いました。

「俺が思考人形だとしよう」の一行もよかった。軽い場面転換に使われる、ざくっと斬りつける一行がどれもすごいよかったです。

 あとウミガメのスープ問題の別解出してくるのめちゃくちゃよかったですね。。自分でもこれ思いつきたかった。。。

 ウミガメのスープにまつわる『アンフェアさ』という要素はわたしも作品に取り入れたのですが、その不条理さをこの形式で小説に仕立てるのは非常に面白いなと感じました。

 うーん、この小説を読んでいただくためにもぜひ最初から最後まで読んで頂きたい一冊です。

 

 

 

 

というわけで、大変ゆっくりになりましたが、全作感想でした。

 

 

 

 

改めて、力作ばかりの一冊に参加させていただけて光栄でした。

ありがとうございました!