@particle30

惑星イオはどこにある

2023年に読んだ本の話

 

あけましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

 

子どもが生まれたので、育児書や絵本をよく読んでた一年でした。といってもそれらの本を書くとキリがないので、ここではあまり取り上げないことにします。というわけで例年よりは冊数が少なめに見えるかも。

 

 

なお、2022年に読んだ本の話はこちら

meeparticle.hatenablog.com

 

 

 

 

本の感想

まずは小説部門。

 

小説

エンドロール(塩谷験)

 

ミステリ小説。

「探偵と思想の戦い」でもあるし「裏切者を探せ」的な要素もある。

「なんのために書くのか」の話でもあるし、「文章に何が出来るのか」の話でもある。

いやー面白かった。なんか何か言うとネタバレになりそうなので、↑こういう曖昧なポエム感想だけで終わりにしようと思います。メフィスト賞受賞作家だそうです。トリックやアリバイ等を考える必要のない、でも良質な心理ミステリでした。

 

今度生まれたら

評判がよかったのでとりあえず購入して電子書籍で読む――という読み方をしたので、最初、小説なのかエッセイなのか分からなかった。それぐらい、まるでエッセイのような書き口をとっている【小説】です。

プライドのとにかく高い70代女性の生活の話。「おばあさん」の煩さというか、面倒臭さの詰まった一冊。

 

すずめの戸締まり

 

映画鑑賞後に読みました。

 

「天気の子」の時にも思ったけど、この、映画を追体験するかのような読書体験は本当にこの本ならではのもの。小説版にしか書かれていない情報も多少ある。単体の小説としては(映画では3人称的なところをむりくりまとめている点もあり)読みづらいとは思うが、でもまあみんな映画→小説の流れで読むだろうと思うんで全然問題ないと思います。いい映画でした。

 

せっかくだから映画「すずめの戸締まり」の話もしようかな。わたしは同監督の「天気の子」がかなり好きで、2Dアニメーション映画のなかで一番好きな映画は何かと聞かれたら躊躇いなく「天気の子」をあげると思います。(ちなみに3Dならズートピア、実写ならタイタニックインセプション

 

「すずめの戸締まり」は、少女が自分をもう一度抱きしめるために日本縦断するロードムービーで、随所にみられる「人間という存在への底なしの肯定感」や「ある種無責任にもとられかねない楽観性」による人間賛歌の音色がとても純粋で、そこが好きでした。しかもメインヒーローが長髪の男という…………(長髪の男がとても好き)。

 

震災と津波の描写があるので、人を選ぶ部分はあると思いますが、おすすめの映画ではあります。万人に向けた傑作というものではないと思うし、尖り方で言えばわたしは「天気の子」のほうがぜんぜん好きだけど、でも「すずめの戸締まり」もよかった。

 

異類婚姻譚

こちらで感想記事を書きました。

 

 

 

新書・雑学書・エッセイなど非フィクションもの

 

マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる「しくみ」教えてください

 

一冊だけ育児書を入れさせてください。これは、なんというか、全然「子育て」の枠に収まりきらない本。

 

自分の夜の自由時間とやるべきことを計算しておくとか、小さな報酬を用意して物事を進めるとか、たまにはノーゲームデーを作って新鮮な1日を過ごすとか、大人にも効果覿面なTipsばかり。行動認知療法に興味が出た。

なんかダラダラしちゃってぜんぜんやりたいことできないな……とか、締切直前になるまでなんにもできないな……みたいな悩みを持つ人は、子どもがいるいないとかに関わらず「自分のため」に読んでみてもいい本なんじゃないかなあ、とすら思います。

読めばすぐに何かが解決できる魔法が書いてあるというよりは、「あー、それちょっとやってみるのいいかもな、試してみようかな」みたいな気持ちになれるプチTipsが簡単に漫画でライトに紹介されてる本、って感じ。新しいことを始めるモチベーションの豊富な、年明けの今読むのがふさわしい本でもあると思います。

 

ことばの発達の謎を解く

面白かった。乳児・幼児がいかにしてことばを獲得していくのか?という話。(←この一文だけでへ~面白そう~って思った人にはすごくオススメです)

子どもは、言葉のシャワーの中から、「文法」をなんとか抽出して、単語ひとつひとつがどういう意味合いをもつのか、分類して学んでいるらしい。すごすぎる。

言葉を学ぶということは、「知っている概念をラベリングしていくこと」ではなくて、「言語をもとに、知覚した世界を切り分けていくこと」という話が面白かった。言語って、ただのラベルではなくて、認知や思考そのものなんだよな、という。言語があるからこそ、ラベルを貼る先の対象ができるというか。

あと、言語学習中の子どもは「推論力」と「修正力」が並外れている、という話も面白かった。たしかに、「これはペンギン」と教えられた時、その言葉の対象が動物なのか鳥なのかペンギンなのか固有名なのかを判断するのはめちゃくちゃ難しそうな、とか。自分の推論が間違っていると気づいたら、すぐ修正できる柔軟性とか。

この本を読んだ後で、Youtubeの「ゆる言語学ラジオ」を見るようになったんだけど、結構内容が被っており良い復習になった。同じ本で学んだ誰かと、その本の内容についてあれやこれやと喋る――みたいなのがわたしは結構好きなんだけれど、それを疑似体験できる感じ。

 

ヒトラーとナチ・ドイツ

そういえばどうしてヒトラーって台頭できたの? という、一度ならず何度も浮かぶこの疑問を、主に「政治制度」の面から答えた本。何が起きて、どうなって、ヒトラーを支持したほうが有利となる状況がドイツの中で出来上がっていったのか、という遷移が書いてある。ドイツの当時の政治制度のひずみや、国民感情、そしていくつかの偶然など、さまざまなタイミングが奇妙にかみ合ってしまった結果、悲劇が起きたということは理解できた。ところで彼は割と「自分で作り上げた思想」はない人だったようなので、そこだけ少し意外だった。

ただ、一つやっぱり不思議なのは、ヒトラーの反ユダヤ感情そのもの自体は、いったいどこで生まれたのか?ということ。この本を読む前は、彼は反ユダヤ感情を利用して何かを起こそうとしていた(例えば反ユダヤ感情を利用してドイツ人の鬱憤を発散させていたとか)だけで、別に個人としてユダヤ人が嫌いだとか、それだけであそこまで行ってしまったわけじゃないだろう――と思っていたんだけど。どうやらただ単に彼自身が「ユダヤ人を憎んでいた」としかいえないような非合理な選択場面もあるようで、なぜそこまでいってしまったのかが不思議。この本はこの本でめちゃくちゃ面白かったけど、もう少しヒトラー個人の心理面にフォーカスを当てた本も読んでみたい。

 

出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来

一冊だけ重たい本の紹介も。

この本は出生前診断に関する「医療側」からの意見を書いた本。当事者となるべき「親の側」の意見は伝聞という形式でしか記されていない。この本を読んだ後、わたしは、出生前診断を受けないことに決めた。

 

出生前診断を受けて陰性だった人が「出生前診断を受けて良かった」と思うのはよく分かるし、出生前診断を受けずにダウン症その他の子どもを産んだ人が「出生前診断を受ければよかった」と思うのもよく分かる。正直、そういう状況にある人達がそう思うのは至極当然のことだとすら思う。けれども、そのどちらにも該当しない、「出生前診断を受けて陽性だった人」は、果たして「出生前診断を受けてよかった」と思うのかどうか、とか、そういう視点の本だった。

 

 

本の感想としてここに書くようなことなのかどうか分からないけれど、その時思っていたことをここに残しておきます。(長いのでクリックで展開)

 

 

※この先、ダウン症について深く調べても考えてもいなかった時のわたしの意見をメモしてある部分があります。ダウン症について真正面から考えたことのある人にとってはとても浅慮な部分があると思うし、今自分でも読み返してもすごく知識のない考えが混じっているなと思います。でも「出生前診断を受けるかどうか」ということを考える妊婦の思考フローとしては、このような流れを辿ったのは事実なので、やはり残しておこうと思います。

 

自分に置き換えて考えると、たとえばもし目が見えなかったとして、生んで欲しくないなんて思うだろうか。いや思わない。耳が聞こえなかったとして、ダウン症だったとして……と考えてみた。正直、「自分がダウン症だったとして」という条件で想像するのは非常に難しかった。わたしがダウン症の人をさほど知らないというのもあるし、そもそもダウン症の人に現れる症状には個人差も大きい。ダウン症の人は合併症も起きやすいそうで、小さいころから病院に通う回数も多いと聞くし、医療の進歩で寿命がかなり延びたとはいえ、依然として低年齢で亡くなるリスクもある。

でも30歳まで生きられないとして、たとえばだけど30歳で死んでしまうとして、ちょうどその時30歳だった私は、もし胎児の頃、わたしを宿した人が「30歳まで生きられないなんてかわいそうに」と言って中絶を検討しているのを想像してみた。直感的に、いや、それは自分で決めさせてくれよ、と思った。30歳までしか生きられないからといって、20歳までしか生きられないからといって、10歳までしか生きられないからといって、それは、それでいいかどうかは正直生まれてみないと分からないと思った。

いろんな条件を考えてみた。目が見えなかったら、耳が聞こえなかったら、ダウン症だったら、生まれながらにどこかがとても痛くてそれが治る見込みがなかったら、とか、とか、色々。結局自分にいろいろ置き換えて考えてみてわかったのは、「幸せになれないのであれば」生んで欲しくない、という意見だった。でも、生まれるのは勿論自分自身ではないのだから、「自分に置き換えて考える」ことに、正しさがどこまであるのかはまだ正直よく分からない。

では、ダウン症の人が幸せであるかどうかをまず知りたいと思って、ダウン症の支援団体の方が出していたアンケート結果にたどり着いた。ダウン症とそうでない人との間に、幸福度の差はなかった。ダウン症の親についても、支援と繋がっている人の場合であれば幸福度に差はなかった。

ところで本の中では、「ダウン症でもアーティストになって成功している人はいますよ」的な言葉に励まされる親はあまりいないという話が出てくる。親は、子どもが天才でいてほしいわけでも世界的アーティストになってほしいわけでもなく、ただ幸せに暮らしてほしいだけだ、という話。それもそうだよなあ、と思う。障害のある子どもを持つ親は「子どもが天才ではなかった」ことを悲しんでいるんじゃないもんな、と。

 

(ところで、出生前診断の話をするときになぜ数ある障害のなかでもダウン症にフォーカスがあたるかというと、「出生前診断」で判定できるものはとても少なくて、その少ないうちの一つがダウン症だからです。これも本を読むまではあまり分かっていなかった。もし、他の障害も診断できるような状況になったら、発達障害や性格や美醜も含めた身体的特徴も分かるようになったら、もっと色んな視点から物を考える必要が出てくると思います)

 

また、海外における「出生前診断」がどう考えられているか、という視点の話も多い。

もちろん出生前診断の実施率が高い国低い国いろいろあるが、実施率が高い国でも、その文化的背景は様々。アメリカは移民国なので人種によっては4人に1人が重篤な遺伝病の因子を持っていることもあり、「産まない」判断をするためではなく「産む」判断をするために出生前診断を受けることもあるという(診断がなかった頃は、夫婦共に因子があると判明したら妊娠自体を諦めていた)。その他、診断が陰性とわかるまでは「妊娠した」という感覚が薄い国(=出生前診断が終了し、問題がないと分かった時点で「妊娠」を喜ぶ、という感覚)もあったり。

 

 

ただ、こんなに、こんなに考えたのに、生まれた子どもを育てていると、一人目と二人目とでは「出生前診断」に対する考え方も変わりそうだな、と思う。一人目の時は出生前診断を受けることなんて考えてもいなかったけれど、二人目の時には受ける、という人もいるだろうな、と。わたしとしてはやっぱり、出生前診断を「全員が受けるべき」という形式にするのはものすごく抵抗感がある。十代の頃は、もし子どもを産むことがあれば出生前診断を必ず受けるだろうとぼんやり思っていた人間だったにも関わらず、そう思う。

 

 

つぼやきのテリーヌ

森博嗣のエッセイ。

2ページずつ(見開き1ページ)の、100篇のエッセイが詰まった一冊。エッセイというよりは長い呟きに近いかもしれない。限られた紙面いっぱいに、明瞭にしかし具体的に、森博嗣個人の哲学が表されている。

 

「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店

「相手のカルテ(好きな本、大事にしていること、哲学などが書かれたカルテ)」を元に、1万円分本の選書をしてあげますよ、という本屋さんが大ヒットしているという話。たしかにこれはヒットするだろうなあ、と思う。セラピーとかカウンセリングみたいな効果もあると思うので。

この「一万円選書」という取り組み自体は、本を売るためなら誰でもパクリ大歓迎ということなので、わたしは本屋ではないが、誰か友だちと個人的なお遊びの一種としてやってみれたら楽しそうだなあ、と思っている。通話したことや会ったことある人のなかで、やりたい人いたら連絡ください。

 

 

オタクの楽しい創作論

「みんなの創作論」をテーマに書かれている本、ってなかなかないんじゃないか!?とすごくワクワクしながら読み始めたんですけど、一次創作じゃなくて二次創作の方の「創作論」でした。たしかに、頭に「オタクの」ってわざわざ書かれてるもんな……。

まあでも、面白かったです。これの一次創作版の本がほしいんだよなあ。同人誌でも全然いいので、みんなの悩みとかを読んでみたい。

 

 

自分の中に毒を持て(岡本太郎

岡本太郎が好きです。

 

本人の著作は読んだことがなかったんだけど、まあ読みづらい文章だった。なんというか、そうだな、読み応えがあるというか……。「噛み応えがあるね」っていう、簡単には飲みこませてくれない文章。

 

内容としては、タローの人生観/男女観/芸術論がざっくり描かれている。男女観編が一番面白かったかな。あまり論理的な本ではなくて、岡本太郎自身の爆発的な思想をとにかく書き殴った本、という感じ。

印象に残ったのは、「平然と人類がこの世から去るとしたら、それがぼくには栄光だと思える。」という一文。この栄光のパワーみたいなものを、あの踊る棒人間に込めていたんだろうな、と思った。彼の芸術は大好きです。

 

---------------------------------------------------------

 

その他、漫画は、「ブルーピリオド」「彼方のアストラ」「呪術廻戦」「医龍」「違国日記」あたりを読んだ。漫画は飽きたらすぐ読むのやめちゃうので、ここであげた漫画はどれも傑作だったことを約束できます。とくに医龍はほんとうによかったな……。

 

今年の記事、「出生前診断」の本だけめちゃくちゃ感想に気合が入りすぎてましたね。別記事にしてぶらさげるほうがいいかな、とか思ったりもしたんだけど、別記事にするならそれはそれでもう一回読み直してちゃんと感想書きたいなとか、色々思っていたら先延ばししちゃいそうだったので、とりあえずこれで出すことにしました。2024年はスピード重視でいこうね。

 

 

 

はてさて。いつもの十冊を決めます。

 

2023年時点での10冊

・こころ(最後の部分だけ再読しました)

高慢と偏見(今年再読しました)

・わたしを離さないで(今年再読しました)

・人間の絆(今年とばしよみで再読しました)

・ひらいて/綿矢りさ

・はじめての構造主義

・去年を待ちながら

・僕の知っていたサン=テグジュペリ

・少女不十分

・エズミに捧ぐ

 

 

 

 

2023年は、「十冊」に入るほどの本と出会えなかったのが少し残念です。

(とはいえ、異類婚姻譚はめちゃくちゃ面白かったですが)

 

 

あと、実は読みかけの本も多いです。すきま時間で本を読んでいると、なんか集中力があっちこっちに飛んじゃいがちなんだよな……。しっかり時間を取れる夜は執筆にあててしまっているし。読んだ量がほんと少なかったなあって反省したので、明日からまた頑張って読みます。

 

 

 

2024年も、良い本に出会えますように。

 

異形頭オンリーアドベントカレンダー2023 8日目

※これは異形頭オンリーアドベントカレンダー2023 8日目の記事です

adventar.org

 

8日目の異形頭はこちら

異形頭(ガラス玉)

曇った水晶玉の異形頭です。誰も読めない言語の本で埋め尽くされた狭い小部屋のなかで、占い師みたいに一対一で相談者の悩みを聞き、弁護士や便利屋の紹介か、あるいは自ら問題解決に乗り出してくれたりします。

 

 

以下は補足資料

異形頭(ガラス玉)の補足資料

つるつるで指紋がよく付着するので本人は黒手袋を欠かさず付けている。頭は奥が透けて見えるほどではないものの、割と反射する性質なので、相談者はまるで靄のかかった自分と喋っているかのような気持ちで相談や告解をすることになります。

 

 

本編は以上で終了なんですが、SSも書いてみたので貼り付けておきます!

※注意 顔が人間の非異形頭もビジネスパートナーで出てきます。

 

 

SS「半透明の紳士」

 
 
 


最後に

何年か前から異形頭オンリーさんの存在は存じておりまして、いつか参加したいなと思っていたので念願叶ってめちゃくちゃ嬉しいです。12月だけで25の異形頭が見られるの嬉しすぎる。明日からも続く異形頭のお祭り、楽しみに待ってます!

 

ウミガメアンソロ「ビストロ・ラテラル」感想文

 

「ビストロ・ラテラル」、読みました。

 

 

ご覧の通り、シックな赤がたいへん美しい一冊です。

 

ウミガメのスープ」の名前で親しまれる水平思考クイズの自作問題一問と、それをモチーフした小説一作が対になって掲載されているアンソロジーです。

わたしも一作寄稿しております。去年11月に出た本ですので少し時間が経ってしまいましたが、全作の感想文書けたらと思っております。

 

※全作、ネタバレを含みます。読後者様向けです。

 

 

 

 

 

 

 

はじめに

 企画者たけぞうさんによる、非常に上質な文章で書かれた丁寧な前置き。フレンチの皿を目の前に置かれたあと始まる手短な説明のように、この本一冊のために書かれた「水平思考クイズ」に関する背景説明の文章です。
 知的好奇心を刺激され、クイズの一つや二つなどいくらでも解けちゃいそうな気持ちになってきたところで、ウミガメのスープの説明が始まり、目次に切り替わり、本編のスタート。ウミガメのスープ説明文に添えられた雨季さんのイラストもたいへんおしゃれで素敵でした。

 そういえばこの本ほど「お品書き」という言葉が似合う本もないかもしれません。

 

 

「Yの嘘」

 タイトルより「Y」が嘘をついているということがある程度明白な状態で始まる一作。ではYとは誰か、嘘とは何か、ということを頭の隅っこに置きながら読み進めるよう設計された物語でした。

 探偵と助手が、怪しい殺人事件の起きた病院へ向かうーーという始まり方がまさに王道的で、事件解決とクイズのリンクもめちゃくちゃ面白かったです。

 そしてベースの文章力が高く、とても読みやすい。(「読みやすい」という表現、安易に使うと誤解が生じるなあと思うこともあるんですが、わたし自身は文章の「読みやすさ」ってめちゃくちゃ大事な要素だと思っています)

 救った探偵と救われた助手の関係性がめちゃくちゃよかったです。助手って探偵になんか弱みでも握られてるの?ってぐらい献身してるケースが多いと思うんですが、ある意味このペアにおいてはほんとうに(?)弱みを握られているという。。。

 

 

「仲睦まじい恋人たち」

 何か事件が始まりそうなワクワクする始まり方が好きです。あと主人公の名前が個人的に好きです。

 仲睦まじさが怖すぎる。「あなただれ?」って妻側が聞くところまでは夫が怖かったのですが、その後は妻のほうが怖くなってしまう展開になっており、ぞくっとする読後感でした。

 

 

「あなたに押して貰いたいの」

 一つ前の作品から雰囲気が繋がっている感じで、すこし古風なミステリホラー感がとても好きです。最初の2作とは違って、ある意味「ラスト」は分かり切っていて、ではなぜ主人公はそんなにも罪悪感を抱えることになっちゃったの? というホワイを掘り下げていくような感じ。

 

 

「ママ見て」

「まるで輪ゴムで縛ったような関節」っていいなあ。可愛い子どもの身体の描写ってことは分かるんですが、それにプラスしてちょっと表現的に怖い感じもあるというか、可愛い言葉だけで可愛さを表現していない感じが良いです。

 そして普通に怖すぎた。問題文もとてもお上手。

 

 

「私とみーの話」

 クイズに真っ向から挑むミステリなお話。このクイズは全然解けなかったのでちょっと悔しいです。人間の悪意や怠惰って恐ろしい。(さっきから怖かったところばかり話題にあげているな……)

 味覚があまり乏しくない、という設定は序盤から何度も繰り返されていたにも関わらず、作中で解説出てくるまで不審に思うこともなく読んでいてこれまた悔しかったです。

 

 

帰宅部は今日も帰らない」

 テンポがとても好き。榊先輩も好きだな~!って思ってたら怪異だった。好きなものが怪異である確率、とても高いです。「オリジナリティのある七不思議」ってたしかに怖いなあ、とも思いました。適当に流用してきたんじゃなくてほんとにあった事実が伝承されていそうですもんね。

 

 

「イノシシのステーキ」

 一つ前の作品から引き続き部活モノ。これもクイズ的にスプラッタホラーだと思ったら全然違っておりました。お恥ずかしい。

 こうやってクイズのリプレイを読むような感覚で読み進められる小説は、一緒にクイズに挑戦できて面白いですね。カニバリズム的要素があるものの、クイズの答えも小説自体も優しくて好きでした。

 

 

 

「世界でいちばん愛してる」

 わたしが寄稿した作品です。宜しくお願いいたします。

 

 

 

「キャット・ウオーク・ゴッコ」

 クイズ単体で是非挑戦したかったなあと思うほど、前提のあいまいさと不可解さが両立した非常に解き甲斐のありそうな問題。

 そして小説自体も、探偵ゲーム感があって面白かったです。

 

 

 

「不満な彼女」

 名前がカタカナだったので一瞬ファンタジーモノかと思って、意外にも仲間がいた!?と思っちゃいました。

 そしてクイズの答えが冒頭一瞬で分かる爆速解決具合も好きです。久しぶりに小説読んで笑っちゃったかもしれない。

 ラスト、どう着地するんだろう……? と思ったらダークな結末だった。

 

 

 

「コレクター」

 序文が好きです。「人間の心は迷宮だ。」

 早川さん、めちゃくちゃ探偵っぽい喋り方するのにワトスンなところが好きです。

 リフレインする構成も大変面白い。二回見たくなる映画というか、別視点カメラで見れるような感じがあるというか。――そして別視点で見ていただけだと思っていた鏡の先の人物が、違う人だった、という構造が本当におもしろいです。視覚的情報が与えられない、小説という媒体を賢く使っていらっしゃる。

 

 

「垂直落下する思考人形」

「解釈は人間の仕事だ。」が好きです。一般的に人工知能が饒舌だという設定もなんかよかったです。たしかに人工知能ってよく喋るよな……。

 ある意味ロボット専門の探偵である『条理士』という職業設定が良いなあと思いました。オリジナル士業が好きなので……。解釈を仕事にしているというところが好きです。また、このストーリー/設定だと、ハヤブサの出題するウミガメのクイズを解くことが条理士たちの仕事になっているわけで、この舞台設定自体がかなり面白いなと思いました。

「俺が思考人形だとしよう」の一行もよかった。軽い場面転換に使われる、ざくっと斬りつける一行がどれもすごいよかったです。

 あとウミガメのスープ問題の別解出してくるのめちゃくちゃよかったですね。。自分でもこれ思いつきたかった。。。

 ウミガメのスープにまつわる『アンフェアさ』という要素はわたしも作品に取り入れたのですが、その不条理さをこの形式で小説に仕立てるのは非常に面白いなと感じました。

 うーん、この小説を読んでいただくためにもぜひ最初から最後まで読んで頂きたい一冊です。

 

 

 

 

というわけで、大変ゆっくりになりましたが、全作感想でした。

 

 

 

 

改めて、力作ばかりの一冊に参加させていただけて光栄でした。

ありがとうございました!

 

2022年に読んだ本の話

 

今年も書こうと思います。2021年に読んだ本の話はこちら。

 

図書館の利用にハマっていた時期があるので、こう言うのもなんですが「買うほどではない本」をたくさん読んだ一年だった気がします。ではわたしが「買うほどだ」と認識して購入まで至ったはずの家に溢れている書籍たちはどうなっているかというと、レンタル品である図書館本が読まれる傍ら殆ど手を付けられることがないという可哀そうな状況でした。

 

 

 

人間の絆

amzn.asia

 

サムセット・モームの自伝的側面のある小説。2022年最初に読んだ本にしてベストオブベスト。多分「今年の十冊」の中にも入ると思います。

 

あいかわらず冷淡で読みやすい文章と、淡々と続きながらも手触りのある人生。プロポーズを断られたあとに、「でしょうね」って笑い飛ばすところが大好き。主人公のフィリップは非常に湿度の高い人間なのに、「紳士である」がゆえか、他人に気を遣わることを恐れているかのような繊細さと激しさがある。かといってそれだけではない不思議な大胆さ。ほんとうによかった。

 

礼儀正しく品性のある人間でありたいフィリップにはたしかに純白の善性が保存されていて、それがゆえに損をすることも多いんだけれど、良心への呵責がないという報酬をこの人が喜んで受け取ることができますように。でもこの人にとって、結局「世界っていいもの」だったりするんだよな。それ自体に苛立つことがあったとしても。

 

訳者は金原瑞人で、本当に美しい訳文でした。同作者・同訳者の「月と六ペンス」という画家と物書きにスポットを当てた小説もかなり好きです。

 

 

西洋美術とレイシズム

 

西洋美術を軸にして、歴史的なレイシズムについて取り扱った一冊。

 

語り口は雄弁。宗教絵画を、それが描かれた当時の時代の思想が刻まれたスナップショットとして取り扱っている。中盤ぐらいまではシンプルで分かりやすく読みやすいが、後半はレイシズム的絵画の例示のみが続きすこし飽きてくる。あれもレイシズム、これもレイシズム、と例示を続ける本であり、つまりなにかしらの結論を出すタイプの本ではない(別にそれでいいと思うけれど)

 

なお、こういう新書にありがちなように、ある程度の聖書・歴史理解を前提としている。

縞模様が悪魔を象徴すること、三角帽はユダヤ人をあらわすこと、丸い帽子はジプシーをあらわすこと、などは知らなかった。神話のアトリビュートとかと同じく、知識が無いとそもそも読めない絵になっていることもあるのかな。

 

聖書のなかで追放された親子の絵がさまざまな時代で描かれているんだけれど、その親子の身体的表現が、その絵画が描かれた「当時」に迫害対象だった人々(黒人、ユダヤ人、ジプシー)に近くなっているというところは興味深かった。

 

 

シュルレアリスムとは何か

創作家向けの講義録。そうとは知らずに読んだので、「皆さんも作品を作るときにはこう思うと思いますが~」とか「前回宿題で出した~」というような話がぽろんと出てきてちょっと面食らってしまった。

 

ダリがめちゃくちゃ好きなんだけど正直「シュルレアリスム」というアートジャンルについては一切の知識を持っていなかったので読んだ。シュルレアリスム自体は文学起点の活動だった――というのはギリギリ知っていたけれど、その手法までは知らなかったのでかなり勉強になった。無意識に迫るため、とにかく書き続ける――という手法自体は切羽詰まっているときの即興小説に近いようにも思う。

 

他にも色々こういう本が読めたらいいな。おすすめあったら教えてください。

 

 

批評の教室

そもそも批評とは何か? の説明から始まり、テキストへの向き合い方、実践寄りの批評文の書き方まで教えてくれるまさに入門書。「読む」ってどういうことだろう、と考えたりしました。今年は読み手としての自分を大切にしたいと思っています。

 

関連図書もかなり面白そうで、いろんな本が読みたくなった。

物語の構成とかについてもっと理解を深められる本を何冊か読みたい。

 

 

誰にもわかるハイデガー

タイトルからしてめちゃくちゃ怪しそうな本ですが、作者は筒井康隆で、まあなんかちゃらんぽらんな本ではありました。ハイデガーの入門書を読んだあとに、ファンブックとしての本書を読むべきだったかもしれない。語り口は軽く読みやすいのでとりあえずの一冊としてはおすすめ。解説がめちゃくちゃ長い。

 

好きだった一文の引用 //「神のようなものだけがわれわれを救うことができる」と。だが、神はわれわれを救うことはできない。ただ、神はわれわれと同じことに苦しんでいる。

 

どうしても頑張れない人たち

「ケーキの切れない非行少年たち」2。1もそんなに面白くなかったのに店頭のポップに負けて購入してしまった。

最低限の安心感を持たない子どもに対しては、アドバイスとか指導とかではなくとにかく味方でいることが大事――という話、正直そうと分かっていながらも出来ないことも多そうだという感じがする。「そもそも約束を破るような人・努力できない人だから支援が必要なのだ」という言葉の現実感。

新書らしく、めちゃくちゃわかりやすい本ではあります。

 

ダンゴムシに心はあるのか

前書きで著者本人も言い訳している通り、第一章における「心の定義」の話は退屈極まりない。この議題をそぎ落として単にダンゴムシの研究紹介に終始しても十分読み応えの確保できる本になったのではないか、という気もする。

 

動物、少なくとも哺乳類が、嬉しかったり悲しかったり落ち込んだり反省したりする感情を持っているのは自明なことで、個人的にはあのナマコだって悲しんだりしているんだからそりゃダンゴムシも落ち込んだり反省したりするだろうなあ、と思った。哺乳類以外の動物の研究をすこしでもしたことがある人なら、この「心」の定義の上での「心はあるのか」の問いには、あたりまえに「あるよそりゃあ」と答える気がする。

 

著者にとって「心」とは、意思を表現するためになにか別の欲求を抑制できること。

ダンゴムシは障害物に合うたびに左右ジグザグに進む性質を持つが、その結果あまりに長いこと危険な状況に留め置かれるとその性質を破るものもいる。性質をそもそも持たないもの、性質を固辞するもの、途中で学習して変更するものがいるが、学習が働いていることは明らかである――というような話だった。

 

 

2週間で小説を書く!

読むのにそもそも2週間以上かけたんじゃないかな。そして小説は書いていない。せめて書いてくれ。

正直相性がよくなくそんなにためになる本ではなかったが、才能とは継続力、という言葉にだけは強く同意したい。

 

 

「子どもを愛する力」をつける心のレッスン

とにかく「60%」以上の愛情が3歳までに注がれるかが人生のすべての鍵――という感じで書かれている一冊。嘘つけ。

60%って、時間ベースなのか量ベースなのかどういった基準によるものなのかの説明などは一切なく、とにかく愛してあげないと将来愛せる子にならないし、取返しもほぼつかない――みたいな脅迫の本だった。

まあ、もし人間に「3歳までにこれをやっておかないと取り返しがつかない」ってことが本当にあるんだとしたらそりゃ仕方ないことではありますが、それにしてももうちょっと論理性のある説明がほしかった。

 

ところで本を全部読み終えたあとで、ふとWikipediaを見てみたら、著者の方、「愛情の取返し」を行うための「育て直し療法」と称して患者に性加害を行い有罪判決を受けているとのこと……。図書館で適当に本を選ぶと、こういう本にも出会いますね。

 

 

 

産めないけれど育てたい。 不妊からの特別養子縁組へ

「血のつながらない子供を愛することはできるのか?」

できるだろうなとは思うものの、実際にふんぎりつけるには相当な決断力と思案を要しただろうなあと推測できる。

 

養子側は成長したあと実親と再会することがあっても、「自分にとっての両親は育ててくれた両親だ」と思う人が多いのだそう。まあでも、実際的にはそうですよね、わたしも両親のことを「親」だと思うのは、育ててくれた二十年があるからだし。と思ったりなどした。

 

 

折られた花: 日本軍「慰安婦」とされたオランダ人女性たちの声

慰安婦問題は実は韓国との間だけに発生しているものではない――ということはぼんやり知ってはいたんだけれど、あんまりちゃんと調べたことがなかったので読んだ。

 

まあしんどい一冊だった。今よりも売春婦の身分がかなり低かったから、「強制売春だった」のか「そうではなかった」のか、の違いがかなり深刻な生活影響を及ぼしたそう。でもそこの認定争いを国家としなければならない――というしんどさ。韓国慰安婦問題を取り扱った本は数多いけど、オランダのほうはほぼ本がないんじゃないかな。貴重な一冊でした。

 

 

ナルちゃん憲法

この本、なぜか存在をずっとずっと前から知っていて、というのもわたしの人生の推しゴーストハントの「ナルちゃん」が一応タイトルについているから……。Amazonとかで検索すると出るんですよね。

 

本としては、美智子皇后による皇太子(ナルちゃん)育児メモを元に、皇室担当記者が書いた本。もちろん、非常に丁寧で愛情を感じられる子育てですねぇと言う感じ。

 

 

絵筆のいらない絵画教室

子どもに、「絵を描く」前にやるべきことを教える――というような本。

まあ、観察が大事だよね、みたいな話でした。

 

著者が、初めての人体解剖を終えて解剖室から出たときに、階段を昇っていく人の白い足を見て、「えっ、生きている!」と驚いてしまった、というエピソードがとても好き。まずは自分なりに感動できるようなインプットがないと描けませんよねってことを分かりやすく伝えてくれる一冊。

 

 

その子を、ください。

これも養子に関する本。

出すほう・貰うほうのそれぞれの「親」目線の話。産婦人科医師の記録書であることから、「子」側の視点の話はほぼない。

「この子を養子にむかえるために、わたしは子供ができない身体だったんだと思う」と言ったというお母さんのお話があったんだけれど、こう言えるようになるまでには様々な思案が必要だったろうと思う。

 

 

「なぜか娘に好かれる父親」の共通点

娘視点で読むと「そりゃあそんなことしたら嫌われるでしょうね」としか言いようのない本。価値観が違いすぎる。ある意味「娘に嫌われている父親の言い分」を窺い知れる本でもある。

 

「大丈夫!娘とは必ず和解できます」の章とか、ちょっとした宗教みまで感じた。娘と亀裂の走る父親を傷つけないように宥める本という印象。

 

 

モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!

モンテッソーリってなに?知らん。そういう状態から始めるのにちょうどいい本です。

学習的な本と言うよりは、モンテッソーリ教育を行うにあたっての最初のこころがまえを教えてくれるような本。最初の一冊目にとてもいい気がする。細かいことは他の本に任せてる感じです。ゆるさと読みやすさがとてもいい。

で、モンテッソーリというのは「就学前の子どもがどの時期にどんなことに興味があるか」を理解して見守りましょうという考えがベースにあるもの。元々、かなり意識高い感じの教育方針なのかなあと思っていたんだけど、どっちかっていうと受け入れて怒らず楽しませ、という方向の教育だった。

 

 

日本人のためのアフリカ入門

以前から、アフリカ=経済支援が必要な貧しい国、と解像度の低い理解しかできていない自覚があったので読んでみた。アフリカと一言にいってもさまざまな国があり、比較的安定している国から選挙不正で揺れている国までさまざま。

戦後の一定時期、アフリカが世界においては相対的に豊かだったこと(アフリカより貧しい国は他にいくらでもあったこと)や、冷戦終了後に石炭石油等の資源輸出国としての価値が薄まり経済支援の縮小が行われそうだった状況にストップをかけたのが日本であったことなどは、まったく知らなかったし意外でもあった。

 

 

よるのばけもの

実は、初・住野よる作品。

そんなにエンタメしてないのが個人的には意外だった(大人気作家という認識だったので)。ひょっとしたら今作がちょっと珍しいほうなのかも。

文章は読みやすく、青春系作家という感じがする。でも例えば中学生なら誰にでも読めるかんじじゃなくて、そこそこ本を読む子じゃないと読めないかもという感じはした。他の代表作も色々読んでみようかな。旅行の行きの電車で読み終えました。

 

さよならの言い方なんて知らない。6

ラノベ小説です。出たらリアルタイム購入する小説なんて、十二国記とこれしかないかもしれない。もう6巻まで来てしまいました。

デスゲームものではあるんですが、心の底から優しい話なんです。今回も、プレイヤーたちが「アレ」だと明かしたうえで、言葉によって心を動かすトーマの作戦の強みをラストに持ってくるこの構成の強さ。ドラマがすごい。めちゃくちゃオススメです。(6まで読まなくても、最初の1巻だけでも面白いと思う)

 

オークブリッジ邸の笑わない貴婦人

ラノベ

異世界転生」あるいは「タイムスリップ」でメイドになって……という小説はいくらでもあるわけだけど、この本は「現代を舞台に、メイドとしての立場で、いかにして19世紀を再演するか」がテーマ。

苦労が多く描かれ、なんとか主人に認められるまでの物語。後半のドラマはちょっとドラマティックすぎるかなあと思ったけれど、読みやすい文章と魅力的なキャラクターを楽しめた。21世紀に生きているはずなのに、19世紀が少しずつ「現代」「私たちの時代」になっていく使用人たち。執事のユーリさんとのカップリングもさりげなくてとてもよい。

 

メルロ=ポンティ入門

 

哲学書を読んでみようシリーズ。

 

ぜんぜん意味わからんかったが、とりあえず一旦読み終えてみましょうか、という感じで読んだ。内容は1/3も理解できていないと思う。

 

著者自身の、火事の話が本当に印象に残った。隣の部屋がある夜火事になったので、ちらっとベランダから部屋を覗き火の海になっているのを確認してから通報したのだそうですが、実はその覗いた部屋の中には(その時は気が付かなかったけれど)お隣さんの母娘がいたということを後で知った、という話。結局心中だったそうなんだけれど、著者は決して正義感の強い人間ではないのに、あの夜、その小さな小さな娘さんを抱えてヒーローよろしくベランダを飛び出す夢を、何度も何度も見たということです。

 

こう書いても著者本人は喜ばないだろうけど、正直この方の書いた研究エッセイ本とか読みたくなった。メルロ=ポンティについてはまた巡り巡って理解できたら嬉しいなという感じです。(なにも入門できていない)

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

10月以後は体調崩してたのでほぼ本読めませんでした。

今年はまたちょこちょこ読んでいきたいな。

 

 

 

では最後に、2022年時点の十冊です。

 

2022年時点での10冊

 

魔性の子

・人間の絆

屍鬼

・私たちが孤児だったころ

・パズルランドのアリス

ゴーストハントシリーズ

・月と六ペンス

・エズミに捧ぐ

高慢と偏見

・クララとお日さま

 

 

 

今年も良い本に出会えますように。

 

 

2022年10月 第八回文学フリマ福岡出店&参加について

 

2022年10月23日の、「文学フリマ福岡」イベントに出店いたしました。

東京以外で開催される文学フリマは、参加するのも出店するのも初めてで、事前には感じがあんまりつかめないところもあったのですが、結果的には観光がてら三日間楽しめて大変よかったです。

(コロナの状況が悪化して行けなくなってたらどうしよう……という心配もしておりましたが、そんなに悩むことなく行けました。)

 

イベントに参加するとき、過去の方のレポート読んで参考にさせていただく機会が非常に多いので、この記事もそのような一助となれるようちょっと長めにたらたら書いていこうと思います。

 

 

出店風景

 

こんな感じ+タブレットでスライドショー動画流してました。効果はいかほど。

遠地なのであんまり飾りつけはできなかったです。

文学フリマ東京との違い

今まで文学フリマは東京しか参加したことがありませんでしたが、福岡は何よりも「見本誌コーナー」があるのがほんとによかったです。

また、サイズもワンフロアで見渡せる程度の出店数なので、全部の見本誌を表紙だけでも確認する&一旦全部のブースを回る、ということがそんなに非現実的ではない。というか、若干ざっと見でよければ1時間で出来ました。ちゃんと見れた感じがあって非常によかったです。

 

ブースを離れる時間帯について

どうせ開始直後は人来ないだろーと思って、開幕1時間ほど自分も見本誌コーナーいったりブース回ったりして遊んでました。が、やっぱり最初の1時間はブース離れないほうがよかったかもしれない。。。

 

というのも、普段文学フリマ東京においてはだいたい開幕直後ってみなさん売り切れの可能性がある人気サークルをまわってる時間なので、正直そんな人も来ないんですね。

ただ、考えてみたのですが、文学フリマ東京はそもそも出店数も多いので、開幕即時駆け出して買いに行きたい「マストなブース」の数も多く、その結果最初の一時間はそんなに人来ないということだったんじゃないかと……(ていうか考えてみると東京ですら1時間じゃなくて30~40分ぐらいだったかもしれない)

 

12時過ぎに戻りましたが、その後12時~13時の1時間だけで今日一日の売り上げの半分ぐらいに達しておりました。13時以後の失速を考えると、開幕後~13時までは我慢していてもよかったかなー(いやでもー、いち早く本も読みたかったしなー……)という感じでした。知り合いのブースだけダッシュで回って買う+読みながら13時ぐらいまで売る+その後14時以後で1時間抜ける、とかが良かったかもしれない。いやその通りなんだよな。まあでもせっかくだから見本誌すぐ見に行きたくなっちゃうんですよね。

 

ただ、来て下さった方も、見本誌見て来ました!って方が多かったので、開幕一時間は見本誌読んでもらってる時間だと割り切って今後も遊びに出かけてもいいような気もしています。そもそも開幕来るような熱意ある方は1時間で帰らない気もするし(どうなんだろうか、分かりませんが……)

 

宣伝とか売れ行きとか

 

事前のTwitter宣伝はうるさいぐらい頑張ってました。効果あったのかな、どうかな。2名ほど、Twitterで見ましたって方もいらっしゃいました。でもやっぱり見本誌経由が一番多かった気はしてます。

 

あとは動画+お品書きをスライドショーでずっと流していたのですが、ちょっとタブレットだと小さすぎてあんまり皆さん見てらっしゃらなかった気がしてきた。ただ、動画に関しては、Twitter上での訴求力は大きかったかと思います。(絵とか動画とか、やっぱり目をひきますよね)

 

販売数は東京文フリより少し落ちるかな~程度ですが、「初めて」の方が多かったのか、名刺代わりとうたっている「標本」がよく出る感じでしたので、売上額としては少なめでした。でも初めての方に作品手に取っていただけたこと自体が非常に嬉しいので、出店してよかったです!

 

売り手として準備するもの(の、中で忘れたもの)

今回、ありとあらゆるものを忘れました。

・セロテープ(なんとかした)

・ガムテープ(お恵みいただいた。すみませんでした。)

・アルコール(皆さんも使いやすいプッシュ式を持ってくるつもりだったんですけど完全に忘れ、自分が使う用のスプレータイプだけでしのぎました。あと、アルコールティッシュもあったらよかったなあ。。)

・コイントレー(これだけは家を出る寸前で思い出し、リュックに差し込んできました)

 

コイントレーは実はやってるブースもうあんまりなかったんですけど、わたしは引き続き一応続けようかなあと思っています。そんなにお互い手間がかかるわけでも別のリスクが発生するわけでもなんでもない策なので。スプレーでしゅっしゅできるトレーなら常にアルコール除菌出来ますしね。

 

書い手として

見本誌コーナー最強でした。文学フリマ東京に見本誌コーナー帰ってきたら、ぜひ何時間でも立ち読みしていたいです。(あとチラシコーナーもいいよね。文学フリマ福岡では、チラシコーナーはまだ復活していないようでした)

 

あと、新しい本との出会いも多かったです。

福岡という場所柄なのか、それとも久々に見本誌コーナーのある文学フリマだったからか。色んなタイプの文章と出会うことができて、非常に楽しい一日になりました。

 

あと今回はできるだけ早めに感想を皆さんにお届けしたい。積読せずにがんばります。

 

福岡・観光してよかったところ

最後に観光情報。若干博多より遠出するところばかりです。(といっても30分~1時間程度)

 

マリンワールド海の中道(水族館)

博多から30分ぐらいです。水族館が好きなひとならめちゃくちゃオススメです。ラッコがいるし、イルカショーはスケール大きく演出も面白いし、アザラシの通過ポールは大変可愛く、ちょくちょく行われている水槽ショーもとてもよかったです。イルカの水槽の横にレストランがあるにも関わらず、そんなに混みすぎていなくて普通に座れるし(平日ではありましたが)。

 

福岡市立美術館

ダリの描いた「ポルト・リガトの聖母」という絵画があります。大変大きく、またとても良い絵で、きっと企画展などでどこかに行くことがあったら人の群れに覆われながら見ることになるような力のある絵なんですが、ここでなら独り占めできます。ほかはミロとかバスキアとかシャガールとかがぽつぽつと一枚ずつあります。特定の画家や傾向に沿って収集しているというよりは、ポイントおさえて画家それぞれ一つか二つずつ買っていってる感じ。

また、常設のなかで上記の西洋絵画の他、仏像なども見られます。仏像や屏風エリアは、若干博物館的な趣がありました。学芸員さんによるパネルで、それぞれの品の歴史上のエピソードなどが添えられていたり、普段興味ないようなものも見ごたえ抜群でした。

メインコレクションの中に好きな画家がいる場合は大変おすすめです。公園のなかにあって、気持ちいい風と空気のなかお散歩するような気持ちで行けました。

 

南蔵院

巨大な寝ている仏像があるお寺。

それだけでも見ごたえ抜群(お寺にこんなこと言っていいのか分からないが……)なのですが、大仏に向かうまでの道の間もなかなか面白かったです。

まず一つ目の女人天照堂では、どのような仏様がいるのか・仏様同士の関係性や廻り方など教えてもらえます。その後は軽く坂道上りつつ、行きたければ山っぽい道も進める感じ。ありとあらゆる道にさまざまなお地蔵さまがいるのですが、フクロウの地蔵だったり、なにやら可愛らしい兎だったり、やさしげな猫だったり……。

寝ている巨大仏像の中には入ることも出来ます。大仏様から出た後は、おまけに投げ用の羽がもらえて、お祭りの露店みたいな感じで投げて箱の中に入ればお守りがもらえるという仕組みになっておりました。周囲の人々が「大大吉」を狙う中、一人堅実に「大吉」を狙ってみたのですが、全部外れました。

あと、ご飯は南蔵院の入り口すぐにある古民家だご汁料理店の「吉田屋」さんがおすすめです。お腹空いてたこともあったとは思うけど、これ以上ないぐらい美味しい定食だった。。。中も、窓際では素敵な日本庭園が見えたりと非常にのんびり食事ができるお店でした。

 

 

 

福岡観光もたっぷり楽しめて、本も売れて、またよい出会いもあり、たいへん良い三日間でした。ありがとうございました!

 

百物語アンソロ「一白界談」における自作の説明(mee)

 

「一白界談」という百物語アンソロジーを、2020年11月に発刊しました。(同人誌)

 

*今、何年?(答え:2022年)というかんじだとおもうんですが、しばらく本記事もあたためておりました。そろそろ出します。宜しくお願いいたします。

 

 

▽公式サイトはこちら

一白界談 - 放課後文殊クラブ

 

maruyaさん、tamaさんとそれぞれ33話ずつ、計99の物語を綴じた一冊です。その本について、自作分について説明(というほどのものでは全くないが)の記事を書きました。

 

わたしにとってこの本は、大切な友人と一緒に作った自由研究のようなものであり、人生で最も思い出深い一作であり、ひと夏の思い出であり、かつこの本のために書いた作品が改稿ののちとある新人賞で(賞は取れなかったものの)一定の評価をいただけたという意味で成長の階段を作ってもらった親のような一冊でもあります。

 

 

 

 

 

▽というわけで以下は「一白界談」のネタバレばかりだよ

 

 

 

 

 

 

 

まずはオススメセットの話をします

 

この本、太いですよね。

というわけで、あなたのタイプごとにオススメセットをご紹介します。
 

本格ホラーシリーズ(7選)

1.渡り廊下の女生徒

5.ヤドムシのけんきゅう

23~25.奥ツ城シリーズ

29.黒い先生

86.ガッコウノカイダン

 

ホラー体験談!セット

怪談を直接聞いているかのような気持ちになるセットです 

8.カルミア

9.職員室の前

31.同級生のりかちゃん

33.僕が死んでも

75.キムラサン事件

 

怖さ控えめ! カジュアルホラーセット

ホラー本を買いはしたものの、ちょっと実は怖いのが苦手だとか、夜眠れなくなるのは困るのでいったん今は怖くないホラーを読みたいとか、皆さま色々ご事情はあるでしょう。ということで怖さ控えめセットがこちらです。(「控えめ」なだけなので普通に怖い一行とかもあります)

34.エピタフのアドバイス

36.物分かりのいい人

61.ヒゲゲゲン

63.キムラください

66.一蓮托生

97.月のない夜に 

 

 

これから読む人向けっぽく書いておいてなんですが、どちらかというと読了者が「たしかにこの話めちゃくちゃ怖かったな……」とかとか納得して遊んでいただくために書きました。

 

担当しました33話分について

 

以下が担当分の33作です。読了者向けです。

 

教育理念:キャッチ―に読みやすく序盤に使いやすいようにと思って書きました。「名乗り」で伝聞で出てくる「響子先輩」はこの子です。

カルミア:33話の中盤、ここらで自分らしい話を書かないと死ぬ……と思いながら書きました。藤田くんが頑張って電話インタビューしたんだと思います。

職員室の前:わたしの思うインタビュー風ホラー。「名乗り」中でも話名が出ています。美術教師の斎藤はちょこちょこ出ています。

おばあちゃんに会いたくて:身近な愛する人が、死んでしまったあとは自分と違う秩序のなかで思考を行うということ。

ひとさらい:美術教師の斎藤が出ています。他でも何度か出てる。

Kopernikanische Wende:コペルニクス的転回のこと。タイトルを考えるのが本当に苦手です。この話は書いたのも終盤で、最後まで苦しんで書いてました。

ユウのスカートが揺れる:タイトルを読み返さないとオチ(というか裏設定)に気が付かないのでは、という感じの話です。

返礼と注釈:自分ぽい作品を書きました。あまり怖くはない。「果たして彼は其処にいた」1回目です。死んだ直後ぐらいの話なのでしょう。

エピタフのアドバイス:これも自分ぽさ重視であまり怖くない。即興小説ぽい。

物分かりのいい人:tamaさんこういうの好きかなと思ってtamaさんのために書きました。(創作煮詰まった時、こういう風にたった一人のためだけにお話を書く策は非常に効果的です)あまり怖くない。

水揚げの魔法:読者を犯人にするミステリに憧れているので書きました。時間シリーズ。(多分他にも2つぐらい不穏な時間シリーズがあります)

あの子はだあれ:怪異をとりまく周囲も含めてなんかこわい、という話を書きました。

美術室:場所シリーズ。タイトルを考えるのがつらすぎて、タイトルから逆算して話を考え始めました。

理科準備室:やっぱり怖い理科準備室。人体模型は他の話でやっちゃったので、こちらは水槽で。

図書室:33話あるので、色んなテイストのを書きたいと思い、けっこう外してみた一作です。ちょっと海外文学ぽく。

グラウンドの百葉箱:初日のアイデア出しの時からネタがあった作品でしたが、いまいちオチが難しくて最後まで苦しみました。

ごみ焼却場:「名乗り」でも使いました。

百物語は夏の季語:33話書くの無理じゃない……? と苦しみの中にいたときに、なんとかして楽を出来ないかと考えていたら短歌アイデアが出てきました。

すべての赤子には祝福が贈られる:イヤミス的なもの。星新一的なもの。maruyaさんの話の後ろにウキウキで置かせていただきました。

魂は彼の胸に:このタイトルなに? 「藁しべ長者」がタイトルかと思っていました。

救いは愚者にのみ訪れる:唯一、説明がないと実際に起きていたことがよく分からない作品だったので解説の場所を得られてよかったです。実は狛犬の像のなかには生きた人間が入っており、その人が声も出せず救いを求めて生徒らをぎらぎら見つめていたのですが、思いは届かず死んでしまい、しかも執念で像に張り付いていた目玉まで少年に棒でつつかれ落とされてしまい、もう彼もしくは彼女に気が付くことのできるチャンスは永遠に失われてしまったのでした、チャンチャン、でも愚者である少年たちは何にも気が付いていないから幸福です、という話でした。

意識の超難問:左右というものを、夢と現実というものを、本当と偽りというものを、わたしは真実きちんと理解しているのだろうか、みたいなことを考えながら書きました。怪異側視点です。

足之遠足:足たちが躍っている、というここだけ見るとちょっと恐ろしい話です。ラストページに仕掛け(本当は存在しない幽霊文字が一文字入っている)がしてあります。

幽霊文字:「足之遠足」の仕掛けはこの小説のために置きました。

パプリカ:おいしい物語です。すこしずつ生まれる話が好き。人体がまるごとじゃなくて、パーツごとに生まれてきてあとで合体したら怖いなあと思ったんですが、そのまま書くとグロテスクなのでこのようにしました。

ジャボチカバ:これはおいしい×眼球という最高のSSです。実在の植物で、母校の温室でも飼育(栽培)されていました。ちょっと怖い見た目かもしれないので検索される際はお気を付けください。

野生の思考:書き順ではラスト作でした。絞り出した最後の一滴というか、そういう感じがするでしょう、皆さん…… タイトルはレヴィ・ストロースの名著からいただきました。人間は交換する生きもの。

予告:映画の予告CMみたいに、他の作品の話をするようなものも入れたくて書きました。

N氏と足音:拙作中で僧侶が出るのは今作だけかもしれません。

籠の鳥:この作品のように、一度も改行されない見開きページのある作品を「絨毯」と呼んでいます。

満潮の湖:maruyaさんリスペクトして金魚を書きました。

ピクトグラフ:最後のほうに苦しみながら書いた思い出しかありません。

名乗り:9月まるまる使って書きました。続きはこちら

 

 

 

とかやってたらmaruyaさんが99話分書くって言いだしたからわたしもやります。話順決めのときの話もあわせてできればなあと。(2022年注釈:このまま一年半ぐらい塩漬けになっている気がするので、途中ですが公開いたします。)

 

渡り廊下の女生徒:全ての原稿が出そろうまえにぼちぼち話順決めや編集作業も始めていたんですが、どうしても最初の話が決まらなくてもやもやしていた時に提出されたのがこちら、「渡り廊下の女生徒」。これじゃん!!!ってなって一話目に置かせていただきました。わたしにとって母親のような作品です。「ゆうすけ」って名前がとても大好きです。ある意味一行だけで説明しきれる恐ろしホラー。こういうのがとても好きです。チャイムの音から始まるのが天才的だと思い、その件についてはすでに十五行ぐらいで語って作者さんにお渡ししてあるのでここでは省略いたします。「名乗り」の中にもご登場いただきました。

教育理念:自信があるので序盤に置きました。(本当は自分のは三話目がよかったんですが、「匣」は三話目ぐらいかな~と思ったので)

匣:maruyaさん作品のなかの最初はこれがいいということだったので、ここに配置。これから怪談を読む人間への脅しのような文章ですよね。

真夜中の公園:冷たくて、霧が出ていて、湿っている。なにかが起こる予感しかない。たまさんの作品が本当に好きです。ひたひたとやってくる怪異の足音。

ヤドムシのけんきゅう:ほんとに気持ち悪い(誉め言葉)。プロ意外の作品読んで「ほんと気持ち悪いな」って思ったのは初めてでした。

夜の海に取り残されてしまったので:最高のタイトル堂々第一位……ほんとうにいい。ほんとうにすごくいいタイトル。タイトルがいい小説はぜんぶいい。綺麗で、透明で、でもしっかり怖い。とっても大好きな作品です。本当に余談でしかありませんが、この作品が良すぎて良すぎて、人生で初めて背景あり+人体のデジタルイラストをファンアートとして描きました。今年になってからそこそこ絵を描いているのは、あの時死ぬ思いで一枚描きあげたからだよなあと本当に切にそう思います。(余談すぎる)

物分かりのいい人:33話も書いていると、この話誰が読むんだろう? とあの闇が何度も襲ってまいりまして……でも、一緒に書いてるtamaさんとmaruyaさんは少なくとも読むんだよなあ、と思い、せめてどちらかに刺さる話をと思ってtamaさんのことだけを考えて書きましたが、どのぐらい気に入って頂けたのかはよくわかりません。

水揚げの魔法:切り花って、首のようでもあるし、腕のようでもあるよなとよく思っていました。

つながる電話:え!?なに?なにが起きてるの!?と大騒ぎした作品。maruyaさんの記事で解説されてると思うので是非チェックください。

あの子はだあれ:夜に突然襲ってくる化物とか、首の取れた人間とか、そういうものって、とても怖いですよね。でも、怖いものを見たはずなのにそれを覚えていられないとか、あきらかに人間ではないものがいることを皆受け入れているのに平然としているとか、そういうのも結構”怖い”んじゃないでしょうか。と、恐ろしさのバリエーションを広げるために書きました。

ゾウヘイキョク当番:こ、怖すぎない……? と思いました。

ガッコウノカイダン:な、なんと二階と藤田を出していただいております!わたし、結構この作品が「一番怖かった」かもしれなくて、読んでいて一番痛切で恐ろしくてなんだか泣きたくなっちゃったのはこの作品でした。

棒の手紙:もー怖いよこれー。と呻きながら読んだ。深夜4時ぐらいのとっても頭の働いていないなかで読むと本気で怖かったです。

ピクトグラフ:シュールレアリスムみたいなものを書きたいと思いました。すこし数学的な作品というか、記号的な要素のある物語というか。

月のない夜に:たまさんもこういうの書かれるんだ!とウキウキしてしまった作品です。たまさん作としては最後に置かせていただきました。エピローグみたいで素敵ですよね。これ公式アート来ないですか?

名乗り:がんばりました。一カ月ぐらいかけました。

ものかきといふばけもの:もー、ここにきてこんなの書いちゃうの? ほんとうに天才です。こういう独白のような忠告のような物語が大好きです。

100話目:三つぐらい案を出して、お二人にどれがいいか選んでもらいました。

 

 

 

最後に

 

話順については、エモシリーズ、(あくまでも文体が)カジュアルシリーズ、食べ物シリーズ、場所シリーズ、とかとか、シリーズごとに固めたり、お話同士の要素の繋がりを考慮して順番を決めました。

 

最初から順に読める方は最初から、もしくは目次を見て気になるお話をつまみ食いにて、どうぞお楽しみいただけたらと思います。

 

 

 

*元々、maruyaさんが「担当の33作分の解説記事書く」「ついでだから99話分の感想も書く」っておっしゃってたので便乗した記事でした。パクリ先のほうが先に世に出てしまった。maruyaさんの記事も楽しみにお待ちしております。

青空文庫の人気ランキングを上から順に読んでいく

※こんなことを夏休みやろうとしていたみたいなんですが、たぶん数日でやめてます。挫折(というか中断というか放り投げというか)の記録をここに残しておきます。

 

ーー

夏休みの宿題をやりたいが、大人になってしまったせいで宿題を出してくれる人が一人もいない。仕方ないので自分で自分に出すことにしました。

 

宿題:青空文庫の人気ランキングを上から順に読んでいき感想を書く

 

・基本的には上から全部読む

・ただし、長編&読んだことある&内容かなり覚えてるものはスキップOK

・読まなかった場合も一応感想は書くこと

・内容忘れてる場合は既読でももう一度読むこと

 

 

始めます。

 

 

 

1位:アメニモマケズカゼニモマケズ

 

www.satokazzz.com

 

 

何故これが一位なのだろうか。「雨にも負けず風にも負けず……次何に負けないんだっけ?」って思い出したくなって検索する人が多いのかもしれない。

 

そういえば最初にこの詩を読んだときは「ふーん、この著者の時代にはひらがなを使わずカタカナを利用するものだったのだな」とか思ったものだったんですが、宮沢賢治って他の作品では普通にひらがな使ってるしそんなわけなかったなあと思い直した。でも調べてみたところ、やっぱりカタカナのほうが先に習う文字だったり簡易な文字とされていた(カタカナ+漢字で文字を書くことが特に男性は多かった)というような時代背景はあるようだ。

 

この詩と同じようなことって子どものころには一度は思うような気がする。空気のような人になりたいというか、別に感謝されたいわけじゃないんだけど、いなくなったら突然困って皆が気付いて慌ててくれるような人になりたいということ。ごんぎつねになりたいというか、自己犠牲精神というか。一種のヒーロー願望でもある。

 

そして最後のナムナム念仏が怖い。いったいどういう心境の詩なんだ、と今さらながらに調べてみたら、結構精神的に追い込まれていた死の直前に、(作品としてではなく)自分の手帳に書きつけていた自分に向けてのメモのようなものだったらしい。となると念仏と前半の詩は繋がっているのかどうかすら怪しいじゃないかと思ったりもする。(手帳の日記の続きに、そのままの流れでなんとなくまったく関係ない雑学メモを残したりとかみんなしますよね)

 

たまに、道徳や良心というのはいったいどうやって無垢なる人に教え込めるものなのかなあ、と思ったりすることがある。人を助けましょう、優しくしてあげましょう、誰かを差別してはいけません、寛容の心を持ちましょう。全部正しいと思うけど、でも、なんでそうするの? って聞かれたときに、実はわたしは答えられない。「そうするほうがいいから」という理由しかなくて、しかもその「いい」って言葉も、誰にとっていいことなのか、なにがどうあっていいことなのか、ひとつも説明できないでいる。だからこの詩が、無垢なる誰かのこころを動かしてその土壌の奥深くに、道徳の種をむりやり埋めてくれたらありがたいと思う。

 

 

2位:山月記

www.satokazzz.com

 

 

ぼくは今まで「李徴」を「りび」と呼んでいたことをここに告白したいと思う。

 

ほんとは自分の人生やってかなきゃいけないところ、かわいそうに虎になれたおかげで、罪悪感なく現実を棄てることができた人。実はこの虎のことがすこし羨ましい。

 

ところで、「自分が価値がある人間だということは、実は自分だけが知っていればいいことだ」という価値観をわたしは持っている。自分がいい人間であること、なんらかの才能を持っていること、愛を知っていること、仕事ができること、そういうのは自分だけが知っていればいいことで、「自分という人間には価値がある」ということは、自分がよくよく理解できていれば他者に知らせる必要など全くないことだ。誰にとっても自分自身の価値がいちばん大切なので、それを他者に知らせようとしてなんらかの摩擦を生みかえって自分が傷ついたり、あるいは他人の自認の自己価値というものを損なわせてしまったりすることがあるが、そういうのは本当に何の意味もないただの事故であり、本当は各個人個人が「自分には価値がある」と信じていられるのであれば、それを互いに知らせ合う必要はそんなにない。まあ、だが、そうはならない。

 

あまりに現実的な描写をすると伝わらなくなってしまうことを、「虎になる」という大胆なファンタジー通してうまいこと読者に丸呑みさせる良い小説だと思います。短いし、知らない単語多い割には意味が掴めて読みやすいし。

 

ーーー

 

三位のこころと四位の羅生門までは実は読んだ&書いたはずだったんですが、多分保存ボタンを押していなかったせいでデータが飛んでるっぽいです。(というか二位の山月記も、もうちょっと何か書いてあった気もするのだよな)

 

いまさら書き直す気力もないので、一旦このままで。