@particle30

惑星イオはどこにある

2020年に読んだ本の話

 

「2020年」が「去年」であるということについて未だに驚き続けています。

というわけで今年も読んだ本について記事を書こうと思います。

 

ちなみに、2019年に読んだ本の話はこちらです。

meeparticle.hatenablog.com

 

 

だいたい読んだ順です。(ラスト2作以外)

 

1.バッタを倒しにアフリカへ

これ今年なのか……年始、飛行機のなかで電子書籍で読み終えました。2年ぐらい前のことのような気がする。学者さんのエッセイもの。大量発生して「バッタの海」が出来ると農作物に深刻な影響があるというお話。とても読みやすく、また(極度の虫嫌いの人以外には)誰にでも勧められる一冊です。

 

2.冷たい密室と博士たち森博嗣/すべてがFになるの続刊)

2巻目にしてかなり男性向けラノベ感が出てきたな、という感じ。1年1冊ずつ読もうかなーとも思っておりましたのでそろそろ次を読む頃合いなのかもしれません。

 

3.不思議な図書館(村上春樹

ふしぎな図書館 (講談社文庫)

ふしぎな図書館 (講談社文庫)

 

まだ自由に外出できたころに、表紙があまりにカワイイなあと思ってジャケ買いしました。中身もとてもよかった。「ここは牢屋じゃない」「そうだよ」「そうなんだよ」

 

4. なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか

巻末の本屋リストが良かったです。

 

5. ケーキの切れない非行少年たち

もう本屋でしばらく平積みされているので、そろそろ読んどくか……と思って読んだ。タイトルと帯がやはり目立ちますよね。

 

6.粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う

「粘菌について書かれた新書」というよりも「粘菌の研究でイグ・ノーベル賞を取った人のエッセイ新書」という感じ。最初からそのつもりで読むならぜんぜん面白い。(粘菌の話も書いてありはします)

 

7.海底の支配者 底生生物-世界は「巣穴」で満ちている

研究者のエッセイや新書をすこし多めに読んだ一年だったかもしれません。底生生物が好きなのでなかなか面白かった。

 

8.ガダラの豚中島らも

中島らも初めて読んだんですけど、とっても純度の高いエンタメという感じでものすごく面白かったです。全3冊とは思えないぐらいさらさらっと読んでしまった。小説部門では今年一番だったかも? ところで集英社文庫、裏表紙のあらすじで結構なネタバレしてくるところほんとうにどうにかならないのか。

 

9.わかったつもり 読解力がつかない本当の原因

人間というものがどれほど適当に文章を読んでいるか、を事例ベースで明らかにしてくれる本。うーん、「書いてあること」そのものよりも「書きっぷり」のほうを読んでいるようなあ、人間って。中身では批判的なことを書いていなくても、なんとなく語尾や接続詞で批判的っぽく書くとその文脈だけが頭に残ってしまうというか。

 

10.完全教祖マニュアル

たいへんケーハクな本(に見られるように工夫された本)だなと思いつつ、楽しく読ませていただきました。いつか教祖を目指すことがあれば参考にします。

 

11.日の名残り(再読)

ちょっと事情があって再読。初読のときには「ダラダラしたおっさんの旅行記だな」と思ったものだったが、2回読んだことで、雑談のように見えていたダラダラ箇所もひとつひとつ後半につながってくるパズルのピースだったことに気が付けた。カズオ・イシグロの作品はとにかく「思い返し」て、「語る」という手法をとっている。現在進行形の物語ではなくて、確定してしまってもう覆せない過去の「語り」。それはたしかに夕暮れと相性がいいはずで、ラストシーンでは泣いてしまった。決断する人は先に進むことができるが、選ばなかった人も夕暮れは楽しめる。

 

12.僕の知っていたサン=テグジュペリ

星の王子さま」を書いたサン=テグジュペリ。その大親友、レオン・ウェルトが、サン=テグジュペリの死後に彼を思って書いた本。本当にとても品格ある文章で、こんなものを書く人が「サン=テグジュペリの友人」という立場でしか知られていないとは勿体ないことだな、と思った。『死んで価値が出る人間はたくさんいるが、君は君の死よりも価値がある』とか『憐みは責任の拒否に過ぎない』とか『その人の一部分がわが友ではないような人間はこの世に一人もいない』とか……付箋結構貼ったのでまた読み返したい。

 

13.ボッティチェリ 厄病の時代の寓話

今年発刊の本。なので、この「疫病」というのは勿論かの病のことです。
6月頃、こんなブログ記事も書きました。

meeparticle.hatenablog.com

 

14.翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった(金原瑞人

この翻訳家さん、とても好きなんです。翻訳家とはなにか? 翻訳家は、偉大なる原作に対する裏切り者であり、代弁者であり、間に合わせであり、作品にとっての第二の母親であり。とても軽快で読みやすいエッセイ集だった。「一日練習しないと、そのぶん、きっかり下手になる。ところが、毎日やったからといって、毎日そのぶん上達するかというと、絶対にそんなことはない。つまり、下手にならないために練習をするわけです。ところが、毎日練習をしていると、ある日、いきなり、ぽーんとうまくなる」

 

15.ニンギョウがニンギョウ(西尾維新

ずっと前に1話だけ読んで放っておいていたのを読了。不条理で脈絡がない、でもやっぱり西尾維新が書いたなあと思わせる軽快さ。この本は「使い道がなかった好みの比喩」の墓場なのではないかと邪推したい。 Kindleでも売っているようだけど、箱入り、古めかしいグラシン紙で巻いてある、染みがついたみたいな表紙と、わざわざ特注したらしい堅い感じのフォント(これがまたとっても「古本」らしいんです)も込みで作品でしょうから、実書籍での購入がオススメです。古本屋でよくわかんない本を手に取った時のウキウキが再現されている。

 

16.ローマ帽子の秘密(エラリー・クイーン

エラリー・クイーンはやはり解決編直前にある「読者への挑戦」のページがとてもいい。冒頭の読者馬鹿にした感じも好きですが。

 

17.よみがえる変態(星野源

暇な朝に一編ずつ読み進めていた、親しい誰かのブログを読むような感覚で。なかなか楽しませてもらっていたら、中盤に真っ黒な一枚のページが現れた。なんの演出だろう? と思いつつ読み進めると、そこには壮絶な闘病の記録があって、こういう本だとは全く知らなかったので素直に驚いてしまった。

地獄でなぜ悪い」も、発表当時の状況を知らず、なんのコンテキストも付与せずにただただ楽曲だけで楽しんでいた。ほかのMVはちょっと自意識過剰ぽいのに、意外と自分が一切出ないアニメMVとかも作る人なんだな、ってカラオケで思ったりとか。来週死ぬかもしれない人が「同じ地獄で待つ」という歌詞を書いたこと。

 

18.妖怪 YOKAI(角川ソフィア文庫

百物語を書かなくてはならなくなったために慌てて様々な妖怪の勉強を始めました。とはいえ、結局あんまり使わなかったな……。

 

19.ある奴隷少女に起こった出来事

文章が知的で明瞭で心にせまる美しいものなので、これはとても奴隷が書けるものではないでしょう――ということで、120年間、誰もノンフィクションだと信じず「小説」だと認識されてきた告白書。

これほどの文章が見過ごされていたとは。 とはいえ、文章が120年の眠りから覚めるためには、これを事実と認定するための研究者の不断の努力があったのでしょうから、ある意味「人間ってすごい」ということでもあるんでしょう。こういう魔力を持つ作品が、まだまだ世界には眠っているんだろうなあ。

 

20.ジキルとハイド

新潮文庫夏の100冊で購入。この作品は「二重人格」の代名詞としての存在だけにとどまらず、人間の悪意とその飼い慣らしを描いた名作としても知られるべき。怪奇小説チックの味わい。第三者が対象人物と近づき、その秘密の存在を知り、近づいていく。さらに話が展開し、詰まったところで手記によって全てが明かされる、という構図自体は「こころ」とも一致している。やっぱり書簡型は人の内面を曝け出させるのに向いているよなぁ。短いのに濃厚で、訳文もよく、とても面白かったです。今まで児童版しか読んだことがなかったのですが全然違いました。

 

21.アンダーグラウンド

地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー集、777P。

サリン事件のことは殆ど知らない。だから、この本の中で「前提条件」として書かれいっそ隠されている、「事件後のマスコミの動き」だったり「騒ぎ立て」がなんのことなのか分からない。一人ひとりの日記を覗き見させてもらったかのようなリアルなインタビューには心動かされてしまったんだけど、それ自体がもう正しいことなのかどうかよくわからない。わたしは人間が悲劇に立ち向かう方法を知りたいし、考え続けていきたい。 「あなたは誰かに対して自我の一定の部分を差し出し、その対価としての『物語』を受け取ってはいないだろうか?」

 

22.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

すみません、書き漏れていたので読み順的にここではないのですが感想を書きます。坂本真綾がステイホーム期間に「皆様本でも読みたいでしょう」とオススメ本をいくつか書いてくれていて、その中にあがっていた一冊でした。エッセイ大賞も取っている本なので、もうみんな言っていることだと思いますが、ほんとうにほんとうに良かったです。2020年読んだ中で、一冊どれかオススメしてと言われたら絶対にこの本にします。

 

23.はじめての構造主義

これも書き漏れていた一冊。あ、哲学ってこんなに面白かったんだ、文系の人ってこんなに面白いことしてたんだ、と目から鱗的な一冊でした。哲学に関する本をもっともっとたくさん読みたいなと思っているので、オススメ本あればぜひ教えてください。ほんとに。

-----

 

今年はステイホームしていたこともあって去年よりは本を読んでいるはずだったんですが、ちゃんと記録できていない本もかなりあり、また結構意図して「はずれ」を飲んだ年でもあったので全冊ご紹介は避けました。 また、同人誌は除いています。

「面白かった」と書いた本はどれもとってもオススメです。 

 

 

いつも通り、2020年時点でのベストテン(今年読んだ本だけに限らず、「今まで読んだ本」すべてのなかで)を書いておこうと思います。

 

1.「魔性の子

2.「月と6ペンス」

3.「こころ」

4.「エズミに捧ぐ(ナインストーリーズ)」

5.「アンドロイドは電気羊の夢を見るか

6.「孤島の鬼」

7.「屍鬼

8.「わたしたちが孤児だったころ

9.「死に至る病

10.「ひらいて(綿矢りさ)」

 

 

2021年は、文系の新書やエッセイ本をたくさん読む年にしたいです。人間のこころのことを考える一年でありたいなあと思っているので。

 

 

では、今年もどうぞよろしくお願いします。

 

アドベントカレンダー2020(12月25日分)


12月1日から、本日12月25日まで、「アドベントカレンダー」という取り組みを行っておりました。

 

画像adventar.org

クリスマスに向けてカウントダウンするみたいに、毎日ひとつずつ窓を開けるかのように、サンタクロースからのプレゼントをすこしずつつまみ食いするみたいに、一日一つのSSをみんなで書いて楽しもうという企画です。

本日はそのラスト日なので、1日~24日の24作の物語についてご紹介する記事を書いてこの煌めく夢のクリスマス企画を終わらせたいと思います。

 

また、日々のご感想についてはモーメントにざっくりにはなりますが3つに分けて掲載しております!よろしければ、こちらもお楽しみください~(12月1日分はモーメント件数制限の関係でロストしています。申し訳ありません。。)


 

さて、では、12月25日、ラスト日ということで、大変簡素なものにはなりますが、1作ずつ作品を振り返りながら、一行ずつ感想を書いていけたらと思います。

 

今回参加いただく作品について、なんとなく冬がテーマだといいですね、とは書いておいたものの、規定などは一切設けませんでした。なので、「12月XX日はXXの日」と記念日に沿って書いて頂いた方も、ぜんぜん冬ではない季節のお話を書いてくださった方もいらっしゃいます。ごちゃまぜ感も含めてどうぞどうぞ一粒ずつ、おいしくお楽しみくださいませ。

 

わたしにとっても、はじめましての方も多かったですし、参加者さま同士だとなおのこと見知らぬ相手ばかりだったかと思いますが、みなさんRTなど駆使しながら盛り立てていただいてありがとうございました!(相互感想推奨企画では全くないので、見ていただけの方も、本当にどうもありがとうございました。とにかくとにかく、ご参加いただきましてありがとうございました。)

 

12月1日 mee

 1作目。冬らしく書けたかなあ。おやすみなさい。

12月2日 ゆたさん

これぞクリスマスのお話。そのまま絵本にしてプレゼントブックにしたいなあと思いました。街中に振るしあわせの光をどうかこぼさず受け止めてほしい。また、時期的にもまさに12月初旬らしい、クリスマスとはまた一歩距離のあいた、季節感のあるお話です。

12月3日 つきしろさん

真白な雪にはしゃぐお話。二人の関係性がとても丁寧に書かれている一作です。日常ってこういう手触りのものだよなあ。うつくしさ、はかなさ、そしてあたたかさ。まさに冬らしいお話だと思いました。あったかくなる。

12月4日 mee

ここにきて劣等感と憐みの話です。ちょっと長かったね。

12月5日 硝水さん

なかよし三人組のお話!三人で輪になって、何を作ろう、トライアングルか、思い出か、不器用な友情か。「バミューダトライアングルの日」にかけていただきました。この記念日、ぜんぜん知らなかったんですが、来年から12月5日が印象深くなりそうです。女の子が三人寄ればそこにはかならず呪いが生まれる、なんて言うと不謹慎でしょうか。

12月6日 もみあげ大将さん

雪、そして、音。人生のいやなことを全部雪に閉じ込めてしまえたらいいのになあ。静かさが全てを閉じ込めていく。音はするかしら。クリスマスへのカウントダウン感が素敵な一作です。”傲慢か?”とても好きです。

12月7日 尾崎末さん

ここにきてホラーです!冬はなにか1つ、物語を聞いてからじゃないと眠れない。アドベントカレンダー企画が始まってから、結構「1作読んでから眠る」1日が続いていたこともあり、なんだかとても「今」にぴったりな気持ちで読みました。トイレに行けなくなっちゃったらどうしよう。

12月8日 mee

怪談話が続いてしまいましたが、こちらはコミカルホラーです。

12月9日 明楽さん

あまいあまい、塗りこめられたひとつの飴玉。ふたりきりで生きていったらなんにも怖くない。と、まどろんだままに冬を越してほしいと思いました。それとも二人にとっては世界は永遠に冬景色なのかしら。シチューの香りって、どうしてあんなに胸を締め付けてくることがあるのでしょうね。

12月10日 梧桐さん

ひょ、表紙がある!ということでまずそれに驚いてしまいましたが、ぜひそのまま印刷していただきたいなあと思う一作でした。「じんけん」、人権? こういう話がとても好きです。そだつ、まもる、植物、世界。そして神さま。ある意味パニックものというか、SFものというか。「カレンダー」的作品でもあります。よいものを読ませていただきました。

12月11日 搗鯨さん

金曜日の夜、フライデーナイト。そんな日にどこに行きたいか……というと、こんなお店ではないかしら。こうした不思議な夜に、子どもというものは成長するのかもしれません。クリスマスのあの幸せな空気! 見守る瞳があることの幸せをちゃんと理解できるようになったのは、大人になってからかもしれない。

12月12日 ゆたさん

わたしの直感的な感想を、そのままに書いてしまうことをお許しくださいね。まっしろな世界。一つの叫びが世界を切り裂くような世界。のびやかな世界。窒息してしまいそうなぐらいに酸素が薄い世界で、懸命に息を吸っている。みんなで「このお話は真っ白ですね」と口々にお伝えしまいましたが、わたしも本当にそう思います。

12月13日 硝水さん

みんなでいっぱい考えたくなってしまうお話でした。わたしは結構、こういう物語を、そのままに丸呑みして「おいしかったですね」と言ってしまうほうで、だからここでもなにかを解剖するようなコメントを控えて、輪郭の話は抑えて、印象だけを書けたらと思います。過去の幸せは、思い出すと甘いけれどもう食べられない。キャンドル揺れる柔らかい光、そのあたたかさ。ロウソクを吹き消したあと、煙の残滓さえない部屋のなかの冷たさ。

12月14日 マルヤさん

タイトルがいい。タイトルがいい小説はぜんぶいい。眼球が取れてしまうお話ということで、勝手にわたしに対してのプレゼントストーリーのような気がしています(違うと思う)。ぜんぶがめちゃくちゃになってしまった世界で、手を握り合える相手がいるということ。面倒を見てやりたいと思う相手がいるということ。

12月15日 マルヤさん

普通連日で枠を取りますか?締め切りが連日になってしまうんですが?と思いつつ、この人ならできるんだろうなあ、と見守っていたらサラッと提出されたこちらのデスゲームもの。これもタイトルがとてもいい。「恋とはどんなものかしら」? タイトルのこの質問に答えるかのようなラスト。ハッピーエンドです。

12月16日 マコトさん

上下作!表裏。A面B面。そういうのがすきです。タイトルもふくめて読み返してしまうお話。〇をひとついっしょに描いて、閉じた世界で幸せを探す。あたらしい一日に向けて。雪国らしい季節感でした。みんなの感想も色とりどりで興味深かった。

12月17日 尾崎末さん

異形頭!かわいくて好きです。おなかがすいちゃうグルメ話。このしあわせな生き物たちに光がふりそそぎますように。しあわせはおいしい香りをしている。軽やかな会話劇がとてもかわいらしい。そのヤカンで作る紅茶はきっとあたたかい。

12月18日 mee

わたしの日記あるいは手紙でした。宛先不明。

12月19日 尾崎末さん

まさかの節分。電話ボックスのなかには魔法が詰まっている。水槽のなかを覗くみたいにきらきらの夢。思い返したくなる遠い記憶を持っている人の人生はゆたかだ。と思ったりもします。

12月20日

たのしみにお待ちしております!

12月21日 尾崎末さん

一瞬「続きは……?」と思いました。これで終わりなんだってよ。でも、「続きは……?」(これは現実を受け止められない人の妄言です)。犬を愛でているように見せかけて、なんだかぜんぜんそうではないものを大切にしている話なのかもしれないと思いました。美、というものについて。

12月22日 硝水さん

なんと煙草の銘柄当てクイズ付きのSS。煙草に詳しくなさ過ぎて参戦できませんでしたが、他の方の回答を興味深く拝見しておりました。強いとか、儚いとか、可愛いとか、それってなんなんだっけ、みたいなことをぐるぐる考えながら、煙のなかを乱反射する光たちを見つめていたいなあ。とか。なんだかどこかに帰りたくなっちゃいました。

12月23日 明楽さん

おっ、続きかな……? と思いましたがそうではなく、これはまさに「B面」。ひとつの物語の表と裏。もちろん9日分ももう一度読み返してしまいました。ぬるいお湯のなかで、まだ暖かさの残る布団のなかで、今日という一日を抱きしめてしまいたい。「負けたら死ぬ」とかいうの、好きなんですよねえ。

12月24日 尾崎末さん

ゾンビ!まさか24日にゾンビがくるとは。樹齢300年の大木って実際どのぐらいなんだろう……とかどうでもいいことを思いながら、ゾンビであふれかえるクリスマスの街の情景を思い起こしてみると、なんというか、これってハロウィン。たしかにトンチキ。


 

というわけで、ほぼ一問一答みたいな感じでしたが、みなさんのSSまとめも兼ねて書かせていただきました。改めて読みましたが本当に面白かったな……。アドカレ参加くださった方、読んで下さった方、感想を下さった方、見守って下さった方、ほんとにありがとうございました!

 

さて、参加者さん同士は殆どの方がFF外かと思いますので、
よかったら #2020AdventCalendar_SS_5256 のタグなど使っていただけたらと思います。(ぜんぜん必須ではありません。お楽しみ要素です)

 

 


個人的な話と挨拶とでこの記事を締めたいと思います。

12月、じつは一年のなかで一番嫌いな月です。12月以外は好きも嫌いもないんですが、12月のことは特別に嫌いです。でも、今年の12月はとても良い一か月だった。

 

よいお年を。そして世界でいちばん幸せなクリスマスをお過ごしください。メリークリスマス。

 

 

イベントレポート:11/22文学フリマについて

 

11/22、文学フリマに出店してきました。

 

どのようなスタンスでこの記事を書くか、というところについて少し悩んでみたりもしたのですが、「イベントレポート」ということで、久々に参加した文学フリマの様子をできるだけ細かく残しておこうかなあと思います。

 

またレポートとしては副次的なものではありますが、今回とった感染症対策のことなども少し書いておこうと思います。自分がこういった状況下においてイベント出店するにあたり、出店前には対策方法や部数のことなどをいろいろ知りたくて検索して色んなブログ記事にお世話になりました。それを少しでもお返しできればと思います。

 

と思って色々書いていたら無駄に長くなってしまった。前半は、イベントレポートとしてお読みください。(後半はふつうに本の話をしています)

 

 

 

感染症対策について

 

というわけでまず比較的有益そうな情報からいくか……感染症対策について。この辺のことをしました。

 ・コイントレーでのお金受け渡し
 (これは見た限りほぼ全てのサークルがしていました。購入者側も慣れている感じ)

 ・受け取ったお金とお釣りのお金を混ぜない
 (効果のほどは分かりませんが、一応そうしていました)

 ・消毒液の設置
 (ちゃんと数えていませんが置いているブースさんは多かった。うちのブースは実際使っていたのはお一人かお二人ぐらいでしたが、まあでも、自分が一番使うので、確実にあったほうがいいです。ついでにお客さんも使えるという感じにしていると良いのかなと。こぼしても大丈夫なように下にはガラス板置いておきました)

 ・金銭やり取りや本のやり取りをしたあとは、都度手の消毒
 (自分が万が一無症状で掛かっていたとしても他人にはうつさない、というぐらいの心持で……)

 ・隣のブースの人とあまり近くならないようなブースデザイン
 (左隣さんが2名参加、右隣さんが1名参加でした。左隣さんと一緒の机を使い、右隣さんとは少し机と机の間が開いていました。ので、比較的右寄りに座るようにして両サイドと肩等が触れ合わないようにしました。当日のその状況を見てブースデザインも左右反転させたので、ある程度そのように都合がつけられるようにしておくといいかもしれません)

 ・簡易パーテーション
 (大袈裟なものを作る時間がなかったので、東急ハンズで吊るし+A4ブックカバーを買って代わりにしました)

 ・立ち読み用の本にはカバーをかけ、定期的にアルコールで拭く

 ・Pixiv Payでもお支払い可能に
 (あまり大きく書いていなかったこともありますが、ご利用者はゼロでした。)
  →※これ、正直手が触れ合う機会をほぼなくすという意味で一番いい対策だと思うんですが、Pixiv Payは2020年12月にてサービス終了だそうです……

 ・アルコールティッシュ、雑巾がわりの古いハンカチ、を持っていきました。ざざっと気軽に色々拭けてよかったです。

 

ブースはこんな感じ

 パーテーションについて。正直なところ、ついつい何度か立ち上がってしまったのでパーテーションを上に越えてしまいましたが……まあでも半分以上の方とはパーテーション越しでお話できたと思います。

本当に完全に覆いたいなら、ブース両脇にパイプ立てるレベルのかなり壮大な装備が必要そうです。壁サークルさんだとそうしてる方もいらっしゃいましたが、まあ少数派ではありました。

 

また、公式の対策・処置としては以下をとってくれていました。

 ・会場の各所にアルコール消毒液設置
 ・入場制限
 ・COCOAインストール必須 / マスク着用必須 とし、入り口で確認

 

また、朝は11時ぐらいから行きました。まったく並ばずすぐ入れました。いつもだと、早くいかないとトランク広げづらいとか、ブースの外と中を往復するのが人が多いと大変とかとかがあったのですが、今回は色んなところの余白が大きくとられている&机と机の間が通れる程度に空いているのでブースの中と外もすぐ行き来できる、という感じでかなり設営しやすかったです。

 

当日から起算して二週間前ぐらいまでは、わたしもかなり楽観的な気持ちだったのですが、11月22日に向かうにつれて東京の感染者数がぐんぐんと伸びていき、これは少しでも遠方の方は本当に来づらい状況だろうなあと思うようになりました。元々「ぜひ来てくださいね」とはとても言えないなとは思っていましたが、最後のほうは通販の宣伝するような気持ちで宣伝ツイートを作っていました……。

 

全然人がいないかもしれないな、箱を引き取りにいくぐらいの気持ちでいくか、という心持ちで行きましたが、実際にはそれほど閑散としているわけでもないのに人と人との間隔も広くとられており、入場規制もしっかりしてくれていて、こんな状況のなかでも最善の処置で開催いただいたなあと思っています。

(ただ、わたしもこのイベントがもしも自分の住んでいる都道府県で開催されたものでなかったら、おそらく出店を取りやめていたと思います)

 

公式発表によると、今年の参加者さんは3,000人ほど。去年11月のイベントでは6,000人で、基本いつも右肩上がりだったことを考えると、やっぱり異例に少なかったと言えそうです。

わたしのように出展者一人参加でブースからなかなか離れられずお買い物できない参加者もいたでしょうから、3,000人と一口に言っても、なかなか「買いに」動ける来場者の数は少なかったのかもしれないと思います。(にしては、かなり売れてくれたなぁという感触です)

 

そして一点、もう本当にこれはしょうがないことなんですが、やっぱり見本誌コーナーがないのは、(売り手としてというよりも)買い手としてつらいものがありました。小説というものは、表紙では結局のところ中身がわかりませんから……立ち読みしたい、それもじっくりやりたい、という希望を叶えてくれるのが見本誌コーナーだったと思っています。実際、過去のイベントでは、「見本誌コーナーでさっき読んで来ました」という人も多かったですし、わたし自身もTwitterで事前に調べていたの半分、見本誌コーナーで発掘できたもの半分、という感じで買い物することが多かったです。ブースでの立ち読みも正直普段よりも相当気後れしましたので、「偶然の出会い」みたいなものは殆どありませんでした。一作だけかな……。そういえば、ブースをある程度全部見ているような方も今回は少なかったなぁと思います。

 普段と人の数が変わらないような気がしたのも、もしかしたら見本誌コーナーがなくなっていたからかもしれません。みんなブースを見に来るしかない状況だった、というのもあるかなあと……。

(カレー屋さんもいらっしゃらなかったから、昼休憩しながら本を読んでいる人もいなかった。これはただのノスタルジーの吐露ですが、本を買ってる人と本を読んでる人しかいない文フリの空間がとてもすきでした)

  

このように、一日おきに状況が大きく目まぐるしく変化する、非常に大変ななかでイベントを開催いただいた運営の方には、ほんとうに心からの「ありがとうございます」をお伝えしたいと思います。

今振り返っても、よかったなあ、いい一日だった、と思いながらも、やっぱりまだまだこの感染症はおさまっていないということを改めて強く実感いたしまして、今後のイベント参加などにはもう少し、色々と慎重になろうとは思っています。でも、とにかく11月22日はとてもいい日でした。ありがとうございました。

 

本について

 

感染症の話そろそろ終わります。新刊の話でもしようかな。

二つ新刊だしました。「Polaris」と「一白界談(ホラーアンソロジー)」。 

 

Polarisはかなりいい本に仕上がりました。これを見られただけでも2020年生きてきた甲斐があったなあ。と思うほどのものでした。この世界にこの本があるということを心の支えに生きていきます。と言いたいぐらい、ほんとうにそう言いたいぐらい、綺麗な本になった。(tamaさんありがとうございました。)

かなり薄い本なのに1,000円という可愛くない値段設定で申し訳なかったのですが、箔押しと小口染めとを駆使していたらこんなことになってしまいました。でもとても気に入っているし、きっと手に取って下さった皆さんにも気に入っていただけるのではないかと思っています。もともとWEB掲載の作品なので、安くできる範囲のもので刷って売ってもしょうがないというか、薄いなりに色々豪華な本にしたかった。ウォーター箔押しは上手くいくかどうか本当に心から心配していたんですが、かなりいい具合にできてよかったです。運がよかった。たまたまイメージ通りに仕上がった……。

いまちょっとPolarisのラストとあとがき読んできたんですけど、本当にサイコーでした。あと、なんとこの小説、同人誌のくせに生意気にも「解説」がついています。理科の解剖レポートを読むようなお気持ちで、ぜひ、Polaris読了後にお楽しみくださいね。maruyaさんに解説かいていただきました!

 

 

 そして一白界談。

ここ三カ月ほど、ほぼずーっと取り組んでいた本です。(Polarisの改稿とかtamaさんの誕生日本とかmaruyaさんの誕生日本とかを挟みつつ……)

クリアカバーをつけて並べていると、このレイヤー感が、どこか水槽の中みたいに思えて、窒息しそうな息苦しい文字数の多さも相まって、なんだかほんとうに呪いが閉じ込められているみたいで、どこか、少女のこの表情は遺影にもふさわしい気がして、美しすぎて怖くなっちゃうような何かがあって。とても好きです。

 

この本には、とにかく書き終えるということの大切さを教えてもらいました。文章を書くリズムみたいなものも付けてもらった気がする。自作にたいしてこのような言葉を贈るのも変ですが、ほんとうにありがたいというか、恩師に対して感じるような思いがあります。この子についてはまた別途記事を、ゆっくり、とてもゆっくり書きます。

 

 

 

さいごに。

今後も、同人誌即売会に限らず、いろんな人の集まるイベントやお祭りが開催されることと思います。これからの日本のためにも、対策を取ってできうる限りで参加したいと思う時もあれば、そんなことはとんでもないと思っているような時もあるでしょう。こんなに一日単位で国中の人の考えが変わったりするような状況は、ストレスがかかりますし、とても疲れるのですが、またその時々の状況に合わせて、安全第一に、できるかぎり慎重に、少しずつ楽しみを見つけていけたらと思っています。

 

 

そういえば当日会場には来られない方にも、すこしは”お店”っぽく本の紹介でもしようかとお品書きサイトも作成いたしましたが、あんなものがあってもリアルイベントの良さというものには少しも近づくことができません。だからこそ、文学フリマのようなイベントが、安全に、日本中のみんなで集合して開催できるようになる日がくることを、心から願い祈っています。

 

その日までに、また新しい本を作ろうと思います。

 

 

 

 

ああそうだ忘れるところだった……。部数のことは、ビジネスでも利益を求めているものでもないからこそ、あんまり公開の場所に書くのはなあと思う自分もいるのですが、実際そういった皆さんのブログ記事に自分がどれほど助けられたかと思うと、生々しくない程度に多少は書いておこうと思います。

 

合同誌もあり、仲間に許可を取っていないので細かいことを書くのはやめておきますが、全体で20点ぐらい売れました。普段はもう少し売れるんですが、ただ、安い本のほうが売れているので……これほど高い(2,500円)新刊もあるなかで、この状況下でこんなに売れたというのはかなり快挙に近かったのではと思っています。いつも売れてる既刊は、何故か今回は殆ど出ませんでした。(※というわけで、「売上額」でいうと多分過去最高だと思います)

 

内訳としてはPolarisは目標部数には届きませんでした。が、薄くて1,000円と高い本なので、まあ当然かなあという気もしています。表紙と装丁がめちゃくちゃいいので、見本誌コーナーがあれば多少だれかに見つけてもらえたかもしれないと思うとすこし寂しい気持ちもあるんですが、まあ、薄い本なので、わたしの机の下にきれいにすっぽり収まりますので、誰かにお会いできるその日まで、もう少し眠っておいてもらおうと思います。(高いので「標本」みたいに気軽に配れないのが切ないな……)

 

一白界談は、動画効果や表紙効果も相まって、Twitterから来てくださった方も、その場で足を止めてご購入下さった方もいらっしゃるような感じでした。 でも、やっぱり普段のような、じっくり立ち読みして買っていくという方は少なかったかなと思います。このぐらい売れたらいいな、と勝手に目標にしていた数字もクリアしまして、ほっと安心しています。残りは、テキレボEX2と、あと通販で細々と売っていけたらなぁと。

 

 

2020年は、個人的にはいい年になりました。2021年、2022年も、同じぐらいいい年にできるかなあ。と思うほどの。

 

本当にありがとうございました。

 

Polaris製本について

長くなりそうなので、先に用件だけをきちんと書いておこうと思います。Polarisという作品を製本いたしました。わざわざここまで見に来てくださっている方ならご存じのように思いますが、Polarisは全文WEB公開している作品です。製本にあたってもWEB公開したままなので、わざわざ本として手に取っていただく「価値」というものは、まあお伝えしづらく分かりにくいものでもありますが、それでもお気が向かれたら、どうぞ手に取っていただけたらと思います。また、買わない方もよかったらこの記事は読んでいってください。

 

というわけで、Polarisが本になります。

 

f:id:meeparticle:20201117224926p:plain

(こんなイメージです)

 

文庫本、箔押しあり、小口染め、ということでなかなかのお値段になってしまい恐縮だったのですが、そもそもWEB掲載済みの作品を製本するわけですから、すこしは趣向を凝らした楽しみがないと……ということで、こういう仕様にさせていただきました。

 

お品書きは告知ブログにて、推しポイントはウェブサイトにてご紹介しておりますので、本記事ではただただPolaris製本にあたって思ったことを日記的に書いていければと思います。長くなるかと思いますが……。

 

 *

 

まず、この本の素晴らしいカバーデザインはtamaさんに作成いただきました! デザインを受け取ったときは多少不意打ちだったこともあり非常に驚きまして、しかし一目で気に入って(という言い方をするのも烏滸がましいですが)、その勢いのままに、使わせていただいてもいいですかとお願いしてしまいました。この、少し緑がかったところもある青色も、目と恒星とを見立ててくださった半円も、とても好きです。美しくも苦しすぎるあの作品を、ひとつの粘土で固めてくださったように思えてとても嬉しかったです。また、製本に向けて崩れかけていた気持ちをがっつり立て直していただきました。(表紙を作るのが嫌すぎて頓挫しかけておりました)

 

デザインとあわせてコンセプト文までいただいておりますので、こちらにも勝手に再掲いたします。

全体に鯨幕をイメージしたデザイン。赤くねじれた線は本来あったはずの「死」を反転する場面を想定した。表紙では北極星を中心にまわる星の軌跡と、中央にあるべき北極星の空白・欠落を表現し、同時に、半月のような閻魔の目を隠しテーマとして追加した。

 

 

愛とは欠落のことですよね。と昔お友達と話し合ったのを思い出します。(あくまでも物語のなかにおいてのモチーフとしての「愛」は)なにかを失っている人間、足りない人間、そのままではいられない人間が、半身を求めるように探すもの。それが「愛」。だから主人公は最初はなにかを失っていなくてはならない。それを探す旅のなかで、相手を見つけられれば、その欠損がたとえなんであろうとそれをただ「愛」と呼ぶ。それがその人にとって「かけがえのないもの」なのだと、周囲の人に分からせるために、邪魔されないように、約束をするために、これが大切なものなんだと黙って分かってもらうために。「愛」にはたしかに免責の効果があります。なんでもかんでもとは言えませんが、それでもそこそこ大抵のものは、「愛」だと呼んでしまえば世間から手出しのできないところに雲隠れしてしまうのです。この白い瞳はまるで薄雲を伴って夜を行く月のようにも見えますね。月には箔押しをかけました。このへんの細かい装丁仕様は、tamaさんにお伺いしつつも最終的にはわたしのほうで決めてしまったので、実物で上手くいっているかどうかは分かりません。上手くいっているといいんですが……

 

そしてこの美しいカバーに加え、小口染め! ほんとうに、一度やってみたかったんです。書店で、小口染めの本を見るとつい買ってしまいそうになるぐらいこの仕掛けが大好きです。本に表情があるかのように感じられるからかな。星の光みたいな蛍光イエローの輝きを感じながら、Polarisをお楽しみいただけたら嬉しく思います。自分でも手に取って再読するのがとても楽しみです。Polarisはブースに直接搬入なので、当日まで出会えず……これも、色々イメージ画像を作って想像は膨らませてみたとはいえ、ちゃんとカバーデザインと馴染んで合ってくれるかどうか、結構心配ではあるんですが。

 

また、マルヤさんの解説も7Pにわたり収録されております。こちらは現状本の中でのみお読みいただけるものとなっておりますので、書籍ならではのものとしてぜひお楽しみください。丁寧な解説文を最初に頂いた時には驚いてしまって、かなり長いお手紙でお返事してしまいました。そのぐらいの熱量のものです。ちょっとここで2行ぐらいご紹介してもばちは当たらないかなと思いつつ、いやいややっぱり紙面で(Polarisを読み終えた直後に)読んでいただくのが良いでしょうと思うので、我慢しようかと思います。

 

他にも、この本を「本」になるまで見守って下さった方が何名かいらっしゃって、その方にも御礼申し上げたいぐらいなのですが、さすがに個人の日記に名前付きでエピソードをつらつら書かれたら恐ろしいものかと思うので自重いたします……。

 

さて、そろそろ自分の話もします。あの作品について色々と弁明したいことはあるのですが、せっかくここまで育ってくれたわけなので、今は何も言わず、巣立ちを見守るような気持ちで、この手から離れていく本達を見守っていようと思います。

 

先にも少し触れたかもしれませんが、改稿作業はたいへんな難路でして、けっこうつらいものがありました。まあ誰しも経験があるかもしれませんが、「こんなもの誰が読むんだろう」の呪いが順当にわたしにも降りかかりました。書き手としてのわたしと、読み手としてのわたしと、校正者としてのわたしと、推敲者としてのわたしとはみんな少しずつ言うことが違っていて、しかも書き終わったあとには「書き手としてのわたし」はもういなくなっており、交信もできないわけですから、存在しない人間を守っているような気持ちになって全部がどうでもよくなってしまったり、本当にごちゃごちゃとしたことが沢山ありました。どうして入稿作業までたどり着けたのかよくわからないぐらいです……(いや、間違いなくカバーデザインと解説文のおかげだと思いますが……)

 

完結が5月頃、色んな人に読んでいただき様々なコメントをもらって(まああんな分かりづらい話を、みなさんどうもありがとうございました)、いただいた修正点とひとつひとつ向き合い、真摯に反映したり、今回は忘れさせてもらうことにしたりしながら、なんとか直していきました。過去の自分の機嫌を損ねないように、昔の自分はゆるしてくれるだろうかと考えながら手直ししました。

 

たとえばひらがなの使い方。意外とPolarisはひらがなが多いんですよね。漢字でもいいはずの所が開いてあったりして。細かい教官の顔をしてすべて漢字に切り替えてやろうとするわたしを、押しとどめて「そのままにしといてやろうよ」とか言い出すわたしもいたりして、自分のなかで大喧嘩しました。しかし結局できるだけ、書いた当時のわたしのまるさをそのままお届けできるようにしたつもりです。いややっぱりこれは分かりづらいだろう! と思われるところだけ、修正していきました。少しは読みやすくなっているといいんだけど。

 

そのため、ご指摘いただいたのに直っていないところ、みたいなものも結構あるかと思います。言葉を使ってなにかを表現するのはいつも難しく、間違えてしまったり言葉が足りないことばかりで、だからこそ細かく言葉の指導をしていただけることをとてもありがたく思っています。懲りずにまた色々教えていただけると嬉しいです。

 

Polarisはあんまりプロットを切らずに書いた作品だったので、自分でもいつ終わるのか分からず、いつ終わらせようかと思案しながら書いた作品でもありました。あんまり長々続けてもつらいよなあ、と思いつつ、振り返るとちょっと短すぎたような気もしたり。

 

小説を書いているそのときその瞬間は、じぶんの精神のために書いています。でも、「未来のわたし」が褒めてくれるだろうか、と思うこともあります。でも出来上がってしまったら、それを「未来のわたし」が受け取ってしまったら、あとは皆さんにお見せして、どう思いますか、とお伺いして、その声だけを聞く人間にしばらくなっていたいと思います。……という精神でいられるのはだいたい改稿し終えて二週間ぐらいの間なんですよね。本を売り出す頃には、Polarisというのはもうあんまり自分の作品とも言えなくなっているかもしれません。面倒を見るべき他人が書いた作品だというような気持ちで、宣伝やら発送やら頑張ろうと思います。感想をもらえたら、その時だけむかしの私が蘇って喜びだすと思います。

 

さて、今年は人生が少しずつ切り替わっていくのを感じていく一年でした。来年はもう少し、一つ一つのことをしっかりと終わらせていきたい。どうしてもそうしなければならないほど、ある種切羽詰まっているので。たった一つの目的のためになんらかの思考をわざわざ固めてみることもありでしょうし、すべてを発散させて駆け出してみるのもいいでしょう。手だけは止めない一年でありたいなあ。

 

そういえば、不要なコンテキストが付与されそうだったのであえてとくに書かずに済ませたのですが、実はこぐま座ポラリスも連星です。連星の公転距離の遠さを知らない「おれ」は、互いを巡る連星のことを「幸せそうだ」とわらうんですけれど、彼が適当にすきだと言ったあの星も実は連星であるわけです。

 

 *

 

むかし、「幸せじゃなくても価値のあるもの」を書きたいと思っていました。不幸でも構わないんだ、というメッセージを表現できればと思っていました。今は、もう少し違うメッセージのほうに興味がありますが、それでもわたしはたとえ一時でも自分の軸として「幸せである必要なんてない」というメッセージを選んだことがある人間です。「幸せってなあに」ということをきみと考えるよりも先に、「幸せよりも大切なものってなあに」ということのほうから決めたい。もう少し、愛の話や生き方の話を書こうと思います。書けるうちに。なんとか文章を書いていられる間に。

 

 *

 

なんの話? Polarisの話でした。最近、この本も含め、ちょっと攻撃的で辛気臭い話ばかりでしたが、(すみません、直近の次も猟奇的で人を小ばかにした話なんですが)、そろそろハートフルで優しく甘い物語も書ければと思っています。そんな話書いたことあったっけ? 分からなくなってしまった。あなたがどんな方であろうと、こんなところまで読んでいただけて、どうもありがとうございました。

イベント出店について(11/22文学フリマ&12/26~テキレボEX2)

 

久しぶりにイベントに出ます。というわけで長めの告知ブログです。

 ・11月22日(日) 文学フリマ

 ・12月26日(土)~1月11日(月・祝) テキレボEX2 ※通販イベント

 

お品書き(新刊2冊+準新刊1冊+既刊1冊)、アンソロ参加(新刊1冊+既刊1冊)、文学フリマの参加方法、テキレボEX2の参加方法を、それぞれ書かせていただきます。

 

また、イベントにご来訪・ご参加いただかなくとも本自体は入手できます。十分すぎる数刷っておりますので、どうかご無理なさらず通販もご利用ください。直接お会いできる場合は、当日をとても楽しみにしています!

 

 

 

お品書き

f:id:meeparticle:20201115131839p:plain

 

「一白界談」と「Polaris」はサイトも作ってみました。

 

100story.jimdofree.com

polaris.kacchaokkana.com

 

その他、時間あればいつもみたいにコピー本を持っていきます。

 

文学フリマ

 

文学フリマは、今回は「純文学」にて申し込みさせていただきました。

 

CODIV-19が未だ息を潜めぬなかでの実施ですので、ねむる龍の腹の下でチェスをするような心持ちで、取れる範囲の対策を取って臨みたいと思っています。

また、会場のルールとしては以下となっております。概要を以下に置いておきますが、実際にご来場いただける場合には公式サイトのお知らせも、長くはなりますがお読みください。

 

 ・入場無料のイベントです

 ・マスク着用必須です

 ・厚生労働省が提供する接触確認アプリ(COCOA)のインストール必須です
  (スマホお持ちでない場合の代替策あり)

 ・いつもと違い、見本誌コーナーはないとのことです

 ・いつもと違い、開場は12時となります

 

弊サークルとしては加えて以下の対策も取ります。

 

 ・現金 or Pixiv Payでのお支払いを受け付けます。

 ・立ち読み用の本を、一冊ずつご用意します。
  定期的に拭いておくので、本当にご自由にお読みください。

 ・QRコードでも立ち読みできるようにしておきます。

 ・現金のおつりはトレーでお返しします。

 ・いただいたお金とお釣りのお金は混ぜないようにします。(お釣りは消毒済)

 ・一応パーテーションのようなものを設置します。

 

また、ブースでの会話は、特に気にならないようなら普通におしゃべりしていただけると嬉しいです。

 

特段に「今」という時代の流れを考えて書いた小説は一編もありませんが、世界がどのような状況でもかならず小説というものを必要している人はいるはずだという気持ちで書きました。

 

自サークル

 ・オ-17

 

純文学ブースです!よろしくお願い致します。

 

※新刊については文学フリマイベント当日で売り切れることはありえない部数を刷っております。通販ページもすでに開けておりますので、どうぞどなたもご無理なさらずお楽しみください。発送はイベント後になります。

※既刊(文フリでは新刊)については「十三月のうた」のみ、残り5冊なので売り切れる可能性があります。もし欲しい方がいらっしゃいましたら、イベント前に通販サイトでご購入いただくか、取り置きのご連絡いただければ置いておきますのでご連絡ください。

 

アンソロ参加サークル

 ※既刊は、分かり次第追記していきます。

 

【新刊】食人感謝祭 エ-01〜02

 

https://c.bunfree.net/p/tokyo31/18430

カニバリズムアンソロジー『食人感謝祭』」へ、「焼肉定食」の続編の掌編を寄稿しております。 (※2020年11月発刊)

 

【既刊】邂逅書架(青い本) キ-35

 https://c.bunfree.net/p/tokyo31/14165

 

「本と出会い」がテーマの本好きのためのアンソロジー(まさに我々のような人間のためのアンソロジーです……)に、「石つくりと花の町」という、古ファンタジーな児童文学ライクの作品を一作寄稿させていただきました。(※2019年5月発刊)

 

テキレボEX2

 ▼WEBカタログはこちらです!詳細分かり次第追記していきます。

https://plag.me/c/textrevo_ex2/2755

 

通販

 

通販ももう開けてます!

「一白界談」「Polaris」「十三月のうた」「標本」どれも購入可能です。

 

particle30.booth.pm

 

 

最近一気に本を出してしまったんですが、けっこうどれも値段が高いものでもあるので、試し読みとか読んでいただきつつ、もし読みたくなる夜があったらぽちっとお迎えしていただけたら嬉しいです。多分暫く在庫もあると思います。最近は書下ろし作品ばかり書いていたので、またWEB掲載できる作品にも手を付けたいなあ。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

 

音楽と才能

 

 自分の才能を自分で「見つけ」ることができるのか、という問題。ハリーポッターの寮の組み分けみたいに、HUTNER×HUNTERの水見式みたいに、あるいは拙作・魔術士シリーズの気脈のように、自分の才能や素質を幼いうちに、誰かに教えてもらえるのが一番だが、あいにく現実の世界にそんなものはない。せいぜいが内申点センター試験の結果が多少参考になる程度であって、それだって「その人の素質」を図るものとして眺める人は殆どいないだろう。もちろん学力や成績には生まれ持っての素地がある程度ならず影響するものの、原則的には特定の期間における努力の結果が反映されているとみるのが適切なように思える。生まれ持ってのものもあれば、育った環境もあれば、本人の努力もあれば、という、いわば総合格闘技というか。

 ではここから「生まれ持ってのもの」だけをうまく抽出するには一体どうしたらいいのだろう?

 

 だいたい三歳の頃から十二歳ぐらいまでピアノを習っていた。九年間。こう見ると短くない期間のように思えるけれど、今何か弾いてみろと言われてもおそらく殆ど何も弾けない。練習曲の一曲や二曲なら子どものように楽しく弾けるかもしれないが、その程度。九年間という時間には全く見合わない。どうも音感がないようだった。あと、ピアノを弾くとどんな楽しいことがあるのかよく分かっていなかった、というのもある。もう少し演奏の楽しさみたいなのをちゃんと理解できていたらなあ。子どもの頃の私に、ピアニストの情感的な演奏の映像とか見せたらすこしは理解してくれるかなあ。

 

 あと、音痴だった。

 そもそも一家全員音痴だ(家族のなかに、自分はそうではないという人がもしいたら申し訳ないけれど)。父親も母親も音痴で、弟も音痴だ。私もそうだ。そもそも中低音が上手く出ない。リズムが取れなくてだいたい少し遅い。音程がふらついている。ビブラートが出せたことはない。という感じで率直に下手なので、小さいころは機嫌よく歌っているだけでもよく家庭内クレームが来た。

 自分という人間にあまり向いていない領域・領分といったものがあるのだ、ということを、音楽は教えてくれた。同時に、それなりに努力を重ねれば、とりあえず自分なりに自分のなかで楽しめる程度にはうまくやれるようになるもんだ、ということも。歌はずっと下手だったけれど、ずーっと歌っていたら本当に少しずつ欠点が埋まってマシになってきた。今ではカラオケで気持ちよく歌うことができる。

 

 努力の仕方を教えてくれたのも歌だった。勉強のように「少しずつ知識量や解ける問題が確実に増えていく」というような成長の仕方ではなくて、絵や、歌は、愚直に練習して、楽しくやって、ダメだなあと思えるポイントを見つけて、それを克服して、一時期なんでもうまくできるようになった気がして、しかし暫くすると逆にとても下手になったかのような気分になって、そこをなんとか持ちこたえるとまた少し上手くなって、という風にして成長する。特に歌はこのサイクルが早かったので、「あ、下手に感じられるようになってきたな。また少し上手くなれる階段を上っているんだな」と実感できた。そういう風に自分のモチベーションを管理する方法みたいなものも教えてもらった気がする。

 音楽や歌に関しては、スタート地点があまりに低かったし、一回ごとに上れた分も小さな小さな段差だった。でも、こういう風に少しずつ上がっていけるんだ、という手ごたえを確かに教えてくれた。向いているとか向いていないとかじゃなくて、少しずつ、少しずつ、たしかに上がっていけるということ。

「下手の横好き」って良い言葉だよなあと思う。好きなものがあるのは良いことだ。下手でも好きなものがある、っていうのは特に良いことだ。わたしは実は、好きじゃないのに上手なものというのも一つ持っているんですが、いまだに愛着がわかない。その力は、必要そうになったときに道具みたいにして使っている。

 

 ところで今ふと思ったのですが、小説に関してはなかなかそのような階段や螺旋や波が見当たらない。書いた、書いてない、今日は書ける、書けない、というモチベーションの波はあるけど、実際の力量の波はあんまり自分では観測できない。多少はうまくなっているんだろうけれど、少なくとも三年前ぐらいまでの文章と今日の文章とは特に違いがないように思う。十年ぐらい前のものを読んでようやく、ちょっと下手かなと思う程度。日々上がっている感じもしない。めっぽう向いてないのかもしれないですね。それでも書くけど。

「水銀の沼~ひまわりの夢をみる星屑~」「水銀の沼~星屑に夢を抱くひまわり~」を読んで

画像 

紺碧もも様の「水銀の沼~ひまわりの夢をみる星屑~」「水銀の沼~星屑に夢を抱くひまわり~」を拝読いたしました。素敵な表紙!

 

booth.pm

 

以下は既読者向けの記事になりますが、Pixivで5話まで試し読みができるようです。ぜひ!

www.pixiv.net

 

 

 

 

ーー以下、既読の方向けの記事になります。

 

「水銀の沼~ひまわりの夢をみる星屑~」と、「水銀の沼~星屑に夢を抱くひまわり~」。

 

同じタイトルの本だけれど、「水銀の沼~ひまわりの夢をみる星屑~」のほうが『先に読む本』。どうして1・2巻になっていないのか、もしくは上下巻構成になっていないんだろう? と不思議に思ったりしながら、美しい表紙の手触りも楽しみつつ読ませていただきました。

 

 

まずは「水銀の沼~ひまわりの夢をみる星屑~」から。

オフィーリアを思わせる不穏な表紙。ミステリアスな始まり。タイトルが「沼」だったので、もしかして夜のお店にはまってしまうのかしら、とちょっと不安に思ったりなどしつつ……

来店1回目の「会話は苦手だけど一方的に話すのはかなり好き」という、素直だけれど身勝手で、でも性格がよくよく表れているような序盤のセリフで、銀花のことをすっかり気に入ってしまいました。そのあと少しずつ明かされていく周辺情報と、シスイちゃんの煌めきと。

 

銀花は、『だからどうか馬鹿正直に全てを信じたりしないで』と祈りながら、『この人はなんでも目ざとく褒めるポイントをみつけてくる』なんて思いながら、『ひな鳥を連れて歩いてる』。(※どれも好きな一文です)

 

でも運命は下り坂の一本道で、すっぽりとリンゴが穴に収まるみたいに、重力がなにかを定めているかのように、彼女を海へ帰してしまう。

 

 

――喪失感のあるままに、「水銀の沼~星屑に夢を抱くひまわり~」へ。

ぐるんと転換。次はひまわり側から。

 

星屑巻では、銀花視点だったのでシスイちゃんの煌めきがまぶしかったものですが、シスイ視点になってみると銀花もなかなか女たらしだなあと思うのでした……

「考えたって仕方がないことは考えない。そういう人間にわたしはなるべきだ」とか「君が三十で死んだらワタシが二十七で死ぬだけのことだ」とか、ちょこちょこ心臓を押さえつけながら読みました……

 

 

そして、少しずつ違いの出てくる会話、ほんの少しの流れの傾き、ラストには大きく舵切りが行われて、エンディングが分岐する。

 

ただ、これを『分岐』と受け取れるのはわたしたちが神の視点を持っているからであって、星屑巻もひまわり巻も、どちらもその世界の銀花とシスイにとってはたった一つの現実で、変えられない不可逆の流れであるわけです。

 

真っ暗な星屑巻と、その闇を少しずつ晴らして最後は満開の花畑にしてしまうひまわり巻と。二巻構成(上下巻でも、1・2巻でもない)だからこそできる取り組みだなあと思いました。

個人的には星屑巻はそれ単体でもかなり好きですが、やはりひまわり巻とセットで見て……という良さもあるなあと思っています。ようやくこのエンディングまでこれた! というような感じ。全クリ……には程遠いような気がするものの……(もっとスチルや差分やルートがいっぱいありそう)

 

 

 

星の王子さま」作者のサン=テグジュペリは、「万人の領域に属する最も単純な要素」として花と星とをあげていました。人がきれいなものを思いだすときには、花と、星とが、最も単純な要素として想起される。あと恋と。

 

感想を書くのにすこし手間取ってしまいましたが、じつは本を受け取ってから2日ぐらいで読んでしまいました。ページをめくる手が止まらない、若葉がぐんと水を飲みこむみたいな素直なスピードで読むことのできる、素敵な百合本でした。(そういえば、百合小説本読んだの初めてかも?)

 

 

 

ふたりがこれからも手を取り合っていけますように。

 

また、以前は「Hangman's Knot」の感想も書かせていただいたりしました。こちらの作品もWebで読めますので、みなさまぜひどうぞ。

 

meeparticle.hatenablog.com